※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


藤原道夫さんの成年後見相談 4

1週間後,藤原道夫さんと半蔵弁護士は,家庭裁判所で待ち合わせて,藤原ミチさんの成年後見の申立手続を取りました。他にも申立てのために待っている人が2,3組いました。また,後見事件の件で質問に来て,カウンター越しに裁判所の職員と話し込んでいる人もいます。半蔵弁護士は,裁判所の担当者に,今日予約を取ってあることを告げたうえで,持参した申立書類を手渡しました。書類のチェックを受けている間,道夫さんと半蔵弁護士は,待合の椅子で座りながら,備付のビデオで流されている裁判所が作った成年後見のPRビデオを眺めていました。
道夫さん

「ああ,このビデオ,小林綾子が出ていますね。懐かしいな。」

半蔵弁護士

「そうそう,おしんからずいぶん時間も経ちましたね。」

道夫さん

「小林綾子も大きくなったなあ」

手持無沙汰ということもあり,二人でおしんの話題で盛り上がります。実は,半蔵弁護士はそこまでおしんに詳しいわけではないのですが。
道夫さん

「いやあ,このビデオに出ているような,通帳のチェックや領収書の管理は私には出来そうもありません。」

半蔵弁護士

「いやいや,今回,書類をきちんと揃えて頂きましたし,後見人は道夫さんでも十分やれると思うのですが・・・」

道夫さん

「いいえ,やはり片手間にできるものではないと思いますし,第三者の方にきちんと管理して頂きたいというのが,私たちの総意なんです。しかし,ずいぶん待ちますね。」

半蔵弁護士

「ええっと,もうかれこれ30分か。書類を確認しているのに時間がかかっているのでしょう。先日,別件で申し立てた際もこのくらいでしたから。」

それから,しばらくして,半蔵弁護士たちは「参与員」と呼ばれる裁判所の職員に声を掛けられました。
参与員

「それでは,藤原さん,半蔵弁護士さん,お待たせしました。書類の確認が終わったので,今から少しお話を聞かせて頂きたいと思います。」

半蔵弁護士

「はい、分かりました。」

道夫さんと半蔵弁護士は参与員に案内されて,裁判所内の小部屋に入室しました。三者で挨拶をしましたが,その参与員は年配の男性で橘さんと名乗りました。むかし,家庭裁判所で調査官をしていたということです。東京家裁本庁の場合,このように参与員という裁判所OBの職員などが,書類をもとに関係者から事情を聞くという運用をしています。ただ,たまに,参与員ではなく,調査官が直接事情を聴く場合もあります。
参与員

「書類は拝見させて頂きました。お母さんの判断能力としては,記憶の程度がかなり落ちてきているようですね?申立書で書かれていること以外にも,何かエピソードのようなものはありますか?」

道夫さん

「そうですね,1年くらい前でしたか,町内会の旅行に行ったときに,自分の部屋に戻れなくなってしまったということを近所の方から伺ったことがありました。それと・・・・」

ミチさんの判断能力の低下に関して,道夫さんが2,3のエピソードを挙げていきます。橘参与員は熱心にメモを取っています。
参与員

「お母さんは現在お一人ぐらいのようですが,今後はどこか施設に入所するとか,そういう話はあるのですか?」

道夫さん

「そうですね,子どもたちとしてはゆくゆくは施設でということも考えているのですが,今は自宅にいたいという本人の意志も割とはっきりしているので,ゆくゆくはというところですね。」

参与員

「なるほど。次に,財産の関係ですが,拝見したところ,財産目録に記載のある,むずほ銀行の通帳のコピーが資料として見当たらないようなのですが。。」

道夫さん

「ああ,むずほ銀行の通帳なのですが,どうも,それだけ見当たらないようなのです。キャッシュカードは母の財布の中にあるので,口座があるのは確実だと思うんですが・・・」

半蔵弁護士

「そういうわけですので,むずほ銀行については,残高等も不明ですので,現時点で通帳コピーを思料して添付することができません。後見が開始した後に調査するということでお願いしたいと思います。」

参与員

「分かりました。あとの財産関係の資料は問題なさそうですね。次に,収支の関係ですが,収入としては,資料として年金機構のハガキのコピーをつけて頂いた年金のみですね?」

道夫さん

「はい,そうです」

参与員

「通帳を確認したところ,ほら,ここの月に『ハイトウ』という名目で8900円ほど振り込まれているのですが,これはなんだか分かりますか?」

橘参与員が,資料の該当部分を示しながら説明します。
半蔵弁護士

「参与員,その件なのですが,私から藤原さんに質問して調べてみては貰ったのですが,良く分からないのです。これも,後見開始後に調べるということでいかがでしょうか。」

参与員

「そうですか,それでは,もし資料が見つかったようであれば追完してください。」

半蔵弁護士の経験では,裁判所は,細かい財産や収支の資料との整合性を聞いて来たりすることもあるのですが,そもそも,親族とはいえ,別人の財産なので調べるといっても限度があります。そういう場合には「分からないので,後見開始後に調べたい」というしかないと思います。裁判所もそのあたりはよく分かったうえで聞いているようですが。
参与員

「今回の申立てについては,弟さんも妹さんも同意しておられるのですよね?」

道夫さん

「はい,そうです。子どもたちでも確認しましたし,半蔵弁護士さんからも確認の連絡をして頂きました。」

参与員

「分かりました。今後ですが,調査官の調査が必要ということになりましたら,ご連絡差し上げたいと思うのですが,宜しいですか?」

道夫さん

「分かりました。デイケアなどで出かけていることもあるので,事前に日時を調整させて頂けたらと思います。調査官による調査は必ずあるのですか?」

参与員

「それは,裁判官が決めることになっているのですよ。また,今回の診断書の内容からすると,特に鑑定は必要ないのではないかと私は思うのですが,これについても最終的には裁判官が決めることになっています」

道夫さん

「そうですか,分かりました。」

参与員との面談は40分位で終わりました。今回は,特に問題もないケースでしたが,場合によってはもっと時間がかかることもあります。そんなことを話しながら,道夫さんと半蔵弁護士はエレベータで裁判し余1階のロビーまで降りました。
半蔵弁護士

「どうも,今日はお疲れ様でした。先ほど,参与員も仰っていましたが,ミチさんのところに調査官が調査に来る場合には連絡が入りますので宜しくお願いします。」

道夫さん

「分かりました。その場合は,半蔵弁護士さんも立ち会われますか?」

半蔵弁護士

「いや,今回は特にその必要はないと思っています。道夫さんとミチさんの都合で日時を決めて頂ければよいと思いますよ。」

道夫さん

「分かりました。」

半蔵弁護士

「特に問題なく順調にいけば,1か月半くらいで開始の審判が出るはずですので,その際はまたご連絡します」

道夫さん

「分かりました。」


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