※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


藤原道夫さんの成年後見相談 2

その後、藤原道夫さんは半蔵弁護士にお母さん藤原ミチさんの成年後見の申立てを委任することとし、半蔵弁護士は藤原道夫さんに家庭裁判所所定の診断書のひな形や裁判所が作成している説明文、そのほか必要な書類のリストを作って渡しました。道夫さんが半蔵弁護士の下を訪ねてからしばらく後、書類がそろったということで、再び、道夫さんが半蔵弁護士の事務所を訪ねました。
半蔵弁護士

「今日もわざわざお越し下さって、有り難うございます。」

道夫さん

「いえいえ。あの後、私の家内とも話しをしましたし、弟や妹とも、半蔵弁護士さんから伺ったことをそのまま伝えましたが、やはり、皆、『最近のお母さんは少し様子がおかしいと思うから、成年後見制度を利用した方が良いのではないか』ということで意見は一致しています。」

半蔵弁護士

「分かりました。それで、今日は、早速お願いしていた書類をお持ちくださったということでしたね。」

道夫さん

「はい、こちらにお持ちしました。」

道夫さんが半蔵弁護士の前に几帳面に書類を並べてゆきます。さすがに元銀行マンだっただけあって、書類もきっちりと揃えられてきたようです。 半蔵弁護士は、そのうちまず診断書を手に取りました。
半蔵弁護士

「ええっと、まず一番大事な診断書ですが。。。この診断書を書いてくださった一条先生という先生がお母さんのかかりつけのお医者さんなのですか?」

道夫さん

「はい、そうです。先日半蔵弁護士さんのところに伺った日のすぐ後に定期診察の日があったので、母に同行して、その際に診断書のお願いをしました。一条先生は内科の先生なのですが、精神科でなくても大丈夫なのでしょうか?」

半蔵弁護士

「ええ、先日もお話ししたかと思いますが、成年後見のための診断書を書いて下さる医師について特に診療科目は問われないことになっているのですよ。ええっと、この診断書によると・・・・」

その診断書によると、約1年前くらいからアルツハイマー型認知症が原因と思われる物忘れなどの症状が出現したと記載されています。長谷川式という簡単なテストの結果も記載されており、それによると15点とされていました。長谷川式の簡易テストは30点満点のテストですが、15点というと判断能力の低下が一番重い類型である後見レベルになってもおかしくない点数になります。結論として、一条医師の診断としては、「後見相当」という箇所にチェックが付けられていました。一条弁護士は、仮に裁判所の鑑定となった場合についても引き受けてくれるようで、診断書とセットになっている「付票」という書類に鑑定費用7万円で引き受ける意向であると記載されていました。
半蔵弁護士

「この診断書を見ると、お母さんの判断能力の低下は結構進んできているのかもしれないですね。」

道夫さん

「そうですね。。。気にはしていたつもりだったんですが、やはり、父が亡くなって一人になってから、進んでしまったみたいです。」

次に、半蔵弁護士は、道夫さんが持参した藤原ミチさんの財産や収支に関する資料に目を通しました。
半蔵弁護士

「ええっと、通帳のコピー、定期預金の証書、権利証のコピー、介護サービスの領収書、不動産の登記事項の証明書、固定資産税の納税通知書のコピー・・・・よくこれだけ揃えられましたね。」

道夫さん

「ええ、先日、母親の所に行った際にコピーを取ってきたんです。」

半蔵弁護士

「通帳のコピーを取られたりすることについて、お母さん、特に嫌がりはしませんでしたか?」

道夫さん

「いえ、特にそういったことはありませんでした。一応、『コピー取るよ』と声を掛けましたが、『ああ、いいよ。』と言っていましたので。この辺りも、判断能力が落ちてきているのかもしれませんね。」

認知症のお年寄りの中には、『物盗られ妄想』と言って、財産に対する被害妄想がひどく、たとえ自分の子どもであっても寄せ付けなかったり、財産を取られたと言ってすぐに警察を呼んでしまったりする方もいます。多くの場合は、すぐに忘れてしまっていることも多いのですが、そのようなケースですと、通帳のコピーなどを裁判所に提出する資料として添付することはできないことが多いので、財産に関する資料は添付できないということで申立てするということもあります。
半蔵弁護士

「不動産については、亡くなったお父さんの相続により、土地も建物もすべてお母さん名義になっているのですね」

道夫さん

「そうです。親父が亡くなった後、私たち兄弟でも話し合って、父と母が築いたものなのだから、母にすべて相続してもらったんです。」

半蔵弁護士が通帳に目を通すと、藤原ミチさんは銀行は3つの銀行と取引があり、普通口座や定期口座を合計すると約4000万円程度の預金が有りそうでした。半蔵弁護士は、次に収入や支出のことについて尋ねました。
半蔵弁護士

「お母さんの収入としては、現在は年金だけですよね?」

道夫さん

「そうですね。いま、半蔵弁護士がお持ちの年金のハガキに記載されている通り、国民年金と亡くなった父の厚生遺族年金で、合わせて2か月で60万円位でしょうか。」

半蔵弁護士

「預金の額なども考えると、老後には十分な年金額ですね。支出としては、現在は介護サービスでの支出が月額16万円くらいですね。」

道夫さん

「はい、ほかの支出としては、食費が4万円くらい、水道光熱費で月額3万くらい、医療費で1万円くらい、といったところでしょうか」

現在のところ、ミツさんの収支としては若干の黒字ということで推移しているようです。
半蔵弁護士

「それからっと・・・弟さんと妹さんからの『同意書』を頂いてきてくれたのですね?」

道夫さん

「はい、先日、母親のところに皆で集まった際に署名と押印を貰っておきました。」

半蔵弁護士

「有り難うございます。一応、私からも、お手紙とお電話で、ご挨拶と成年後見制度の説明なども改めてしておきたいのですが、宜しいでしょうか?」

道夫さん

「はい、それももちろんです。弟と妹も、喜ぶと思います。」

それから、半蔵弁護士は、裁判所の「申立事情説明書」という書類の記載にしたがって、ミチさんの学歴や家族歴、この申立てに至った事情などを聞き取っていきました。
半蔵弁護士

「お母さんは、冷泉女学校を卒業されて、その後、鷹司銀行に勤められたのですね?」

道夫さん

「はい、そこで上司の勧めで、父親と見合い結婚したと聞いています。」

その後道夫さんを含めて3人の子どもに恵まれたということで、そのことは道夫さんが持参した戸籍にも載っていました。
半蔵弁護士

「今回の後見の申立ての動機としては、財産管理が主な動機ということで宜しいでしょうか?」

道夫さん

「はい。」

半蔵弁護士

「ところで、現在、お母さんはお金を自分でおろしたり出来ているんでしょうか?」

道夫さん

「いえ、介護サービスなどの大きな支払いはすべて引落しですし、日常生活に必要なお金は、社会福祉協議会のサービスを使って小口の現金は預かってもらっているようです。」

半蔵弁護士

「社会福祉協議会のサービスではそれほど大きなお金は預かってもらえないと思いますが、足りなくなったらお母さんが自分で銀行に行っているのでしょうか?」

道夫さん

「そうだと思います。社会福祉協議会の人に付き添ってあげ欲しいと言われて、私が呼ばれて銀行に付き添ったこともあります。」

半蔵弁護士

「そうですか。それで、今度一度、私もお母さんの所に伺ってご挨拶したいと思っているのですが、大丈夫でしょうか?」

道夫さん

「ええ、もちろんです。ぜひお願いします。」

それから、半蔵弁護士は、道夫さんと日時をあわせて、一度ミチさんのところに実際に様子を見に行くこととしました。

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