※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


伊達はじめ君の少年事件〜その1

半蔵弁護士に一本電話がかかってきたのはもう年の瀬の声もきこえてきた12月1日の夕方のことでした。「はい、半蔵弁護士ですが」半蔵弁護士が電話を出ると、女性が「こちら、弁護士会の当番弁護センターです。」と名乗りました。 (そうだった・・)半蔵弁護士は思い出しました。今日は半蔵弁護士は当番弁護士の担当になっていたのですが、夕方まで電話がかかってこないのですっかり忘れてしまっていたでした。  ただ、半蔵弁護士の名誉のために行っておくと、今日、夕方まで一日予定を入れないでおいたのは、この当番弁護士のため、ずっと事務所に待機していたのであり、決して、半蔵弁護士が当番弁護士制度をないがしろにしていたわけではありません。
弁護士会事務局

「半蔵先生、いま少年事件の被疑者の当番弁護の出動要請がありました。お願いできますか?」

半蔵弁護士

「勿論ですよ。」

弁護士会事務局

「少年の名前は伊達はじめ君で、年齢は17歳です」

半蔵弁護士

「警察署はどこでしょうか?」

弁護士会事務局

「はい、古宿警察署になっています。当番弁護を呼んだのが、お母さんで弁護士さんが接見に行く前に一度連絡をほしいということなので連絡してあげてください」

半蔵弁護士

「分かりました。ところで、罪名はなんでしょうか?」

弁護士会事務局

「はい、罪名は窃盗です。今から先生の事務所に当番弁護連絡票をファクスしますので、宜しくお願いします」

 しばらく経つと、半蔵弁護士の事務所のファクスに弁護士会からの当番弁護連絡票が流れてきました。  半蔵弁護士は、そこに書かれていた連絡先の伊達はじめ君のお母さんである伊達宗子さんに電話を入れてみました。
宗子さん

「もしもし、伊達ですが」

半蔵弁護士

「ああ、伊達はじめ君のお母さんですか?私は半蔵弁護士という者ですが、弁護士会の当番弁護士で今からはじめ君の接見に行くところなんですが、事前に連絡がほしいということでしたので連絡を差し上げました。」

宗子さん

「あ、ありがとうございます。はじめが逮捕されたと聞いて、私、どうしてよいか分からなくて。警察の人に当番弁護のことを教えてもらってお願いしてみたんです。」

半蔵弁護士

「はじめ君がどんなことで捕まったのかについては何か知っていますか?」

宗子さん

「警察の人もあまり詳しくは教えてくれなくてよく分からないのですが、どうも、今日の昼間に学校の仲間何人かでコンビニで盗みをしたらしいのです。」

 半蔵弁護士は、当番弁護制度のことを説明しました。今日の初回の接見は無料であること、引き続き弁護を担当することになると弁護士費用がかかること、ただ、資力によっては刑事被疑者弁護士援助制度などの制度があり実質的に無償で援助を受けられることなどです。ちなみに、少年事件の場合は、保護者が反対していても、少年の意思を基準にして弁護人となるかどうかを決めることになります。  半蔵弁護士はこの機会に、伊達はじめ君の学校や家族環境などを尋ねておくこととしました。
半蔵弁護士

「ところで、はじめ君は今17歳ですね?学校はどちらでしょうか?」

宗子さん

「はい、私立の東京船台工業の2年生です。」

半蔵弁護士

「さきほど、昼間に学校の仲間と盗みをしたらしいということでしたが、学校に行っていなかったのでしょうか?」 宗子さん「はい、朝は普通に制服を着て出て行ったのですが、どうやら学校には行かなかったようです。。」

 どうやら、はじめ君は、お母さんには学校に行くふりをして、そのまま学校の仲間たちと学校をサボり、コンビニで万引きか何かをしたらしいです。  半蔵弁護士は、はじめ君がどんな生活を送っていたのかについて聞いておくこととしました。
半蔵弁護士

「今日は学校をサボったということらしいですが、こんなことは初めてなのですか?」

宗子さん「・・・それが、お恥ずかしいのですが、あまり学校には行っていませんでした。」

半蔵弁護士

「はじめ君が学校をサボるようになったのはいつ頃からなのですか?」

宗子さん

「そうですね、中学2年くらいから少し生活が乱れだして、何とか今の高校に入って入学後しばらくはきちんと学校にも通っていたのですが、高校に入学した年の夏休みくらいからまた生活が乱れ始めてしまいました」

半蔵弁護士「生活が乱れるというのは、具体的にはどういうことなのでしょう?」

宗子さん「中学校の頃は髪型や服装がだらしなくなって、学校の弁護士さんに注意もされていたのですが、学校をサボるということまではなかったんです。高校の夏休みに入って、やはり服装がだらしないものになって、夜遅くまで友達と遊んで帰ってきたりしました。毎日というわけではないんですが。」

半蔵弁護士

「お母さんからは注意はしていたんでしょうか?」

宗子さん

「私としては、気が付けば注意をしていたつもりなんですが。。」

半蔵弁護士

「それで、はじめ君はお母さんの注意は聞いていたのでしょうか?」

宗子さん

「注意をすれば、一応『分かった』とはいうのですが。。。」 何となく歯切れの悪いものいいです。この辺りは、はじめ君本人からも聞いておく必要がありそうです。

半蔵弁護士

「学校をサボることがたびたびあったようですが、今の学校から注意や指導はあったのですか?」

宗子さん

「もちろんありました。担任の先生がうちまで来てくれたこともあって、そのたびごとに『生活を治すようにする』とは言うのですが、友達に誘われると、どうしても断りきれないようです」

半蔵弁護士

「はじめ君はこれまで警察に捕まったりしたことはありましたか?」

宗子さん

「いえ、逮捕されたのは今回が初めてです。ただ、深夜に公園などで騒いだりした補導されたということは何回かありました」

  はじめ君は、どうも友人たちとの遊びの誘惑に負けてしまうところもあるようです。少年事件ではよくあることです。
半蔵弁護士

「ところで、ご家族のことをお尋ねしておきたいのですが?」

宗子さん

「はい、私は夫の伊達政治とははじめが小学生5年生の時に離婚しました。親権は私がもらって、今まで育ててきました。」

半蔵弁護士

「ご兄弟姉妹はいますか?」

宗子さん

「はい、離婚した夫との間の既に独立して別居している息子が一人と8歳になる娘が一人います。」

 どうやら、はじめ君には兄と妹がいるようですが,宗子さんは離婚して母子家庭のようです。  半蔵弁護士は、宗子さんの職業についても聞いたところ、宗子さんは近くのスーパーのレジ打ちや清掃の仕事を掛け持ちしているということでしたが、生活は楽ではないということでした。別れた夫からの養育費は支払われていないようです。
宗子さん

「あのう、質問をしても宜しいでしょうか?」

半蔵弁護士

「もちろんですよ、どうぞ。」

宗子さん

「はじめは、いつ頃出てこられるんでしょうか?警察のお話ではしばらくは出てこられないだろうということだったんですが。。。」

半蔵弁護士

「そうですね、きょう逮捕されたということですので、また何も分からないのですが、今後勾留という手続が取られると最大で23日間、身柄拘束されるということになります。」

宗子さん

「ええ、、そんなにですか。。でも、そうすると何とか年末には家に戻れるのでしょうか?」

半蔵弁護士

「う〜ん、それが、少年事件の場合、捜査が終わった後は、家庭裁判所で観護措置という別の身柄拘束のための手続が取られて、少年鑑別所に送られてしまうことが多いんですよ。」

宗子さん

「ええ〜!少年鑑別所ですか。それは刑務所のようのところなのでしょうか?」

半蔵弁護士

「いえいえ、刑務所ではありません。その名のとおり、心理テストなどを行って少年の発育状況などを調べて、非行の原因がどこにあるのか、改善すべき点は何かということなどを少年鑑別所の少年技官という専門職が調べることになっているのです」

宗子さん

「少年鑑別所にはいつまで入れられているのでしょうか?」

半蔵弁護士

「ほとんどの場合だいたい1か月です。」

今からだと、はじめ君が年末年始にも家に帰った来られないということを聞いて宗子さんはかなりショックを受けている様子です。
半蔵弁護士

「それでは、お電話ではとりあえずこのくらいにして、今から接見に行ってこようと思いますが、何かお伝えしておくことはありますか?」

宗子さん「そうですね、、警察の方のお話では、しばらくは出てこられないだろうということだったのですが、下着とか何か困っているものがあったら持っていきたいので、聞いておいて頂けると助かります。それと警察のお話では、私は面会に行けるということでしたので、なるべく早く面会に行くのでそのことともお伝え頂けないでしょうか」

 半蔵弁護士は、はじめくんへの伝言のことを承知し、電話を切り、師走の寒風の吹きすさぶ中、古宿警察署に接見に向かいました。

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