※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


伊達はじめ君の少年事件〜その5

いよいよ少年審判の日を迎えました。審理時間は10時からということになっています。半蔵弁護士は宗子さんと控室で待っていると,事務官が呼びに来たので,一緒に審判廷に入ります。審判廷には,半蔵弁護士と宗子さんのほかに,書記官と広崎調査官,事務官が先に来て待っていました。宗子さんは,はじめ君が着席する椅子の一段後ろに用意された椅子に座るよう指示されました。ほどなくして,鑑別所の職員に付き添われたはじめ君が入廷してきました。はじめ君は,どうやら坊主狩りにしてきたようです。これまでのナヨナヨとした印象とは違って見えます。全員が揃ったところで,裁判官(審判官)が最後に入廷してきました。ずいぶんと若い裁判官のようです。
事務官の「全員起立!」の声と共に全員起立して,裁判官に一礼します。
陸奥裁判官

「それでは,これから審理を始めます。」

陸奥裁判官は,はじめ君に規律するわように言い,最初にはじめ君に氏名や住所,生年月日などを確認しました(人定質問)。それから,黙秘権を告げたうえで,今回の万引きの件について間違いないかどうか尋ねました。はじめ君は「間違いありません」と答えます。それから,はじめ君に質問をしていきました。成人の刑事事件では,被告人に対して最初に質問するのは弁護人ですが,少年事件の場合は,裁判官が最初に質問していくことが多いのです。
陸奥裁判官

「万引きをずいぶんとしていたようですね?」

はじめ君

「はい。申し訳ありませんでした。」

陸奥裁判官

「いや,私に謝られても困るんですがね。」

はじめ君

「・・・・・・はい。」

陸奥裁判官

「誰に謝らないとといけないんですか?」

はじめ君

「お店の人です」

陸奥裁判官

「お店の人にどんな迷惑をかけたと思っているのですか?」

はじめ君

「・・・・・それは・・・お金を払わずに物を取ったりしたこと・・・・です。」

陸奥裁判官

「お金を払わずに物を取っちゃうと,どんな迷惑がかかるのですか?」

はじめ君

「・・・・・」

陸奥裁判官

「どうなんですか?」

はじめ君

「あ,はい・・・・お金を払わないと,お店が損をすると思います。」

陸奥裁判官

「うん,お店はボランティアでやっているわけではないでしょう?」

はじめ君

「はい」

陸奥裁判官

「万引きが原因でお店がつぶれてしまうといった話を聞いたことはありませんか?」

はじめ君

「・・・・・・・すみません」

陸奥裁判官

「いやいや,すみませんではなくて,万引きが原因でお店がつぶれてしまうといった話を聞いたことはありませんかって聞いているのだけれども?」

はじめ君

「・・・・・・・知りませんでした」

陸奥裁判官

「そういうこともあるんですよ。たかが万引きなんて思わないでください。」

はじめ君

「はい,すみませんでした。」

その後も陸奥裁判官は,被害者の思いということを中心に質問を続けました。陸奥裁判官は自分の質問を終えると,広崎調査官に質問があるかどうか促しました。広崎調査官が「はい」と言って立ち上がります。
広崎調査官

「それでは2,3点ほど。伊達君に質問だけど,今回一緒に使った片倉君たちとは,今後,どうするつもりかな?」

はじめ君

「はい,今回こういうことになって,よくない仲間だということが分かったので,今後は付き合いをやめるつもりです」

広崎調査官

「片倉君,佐竹君,支倉君以外にも,つるんで遊んでいた仲間がいるね?彼らとはどうするの?」

はじめ君

「付き合いをやめるつもりです。」

広崎調査官

「友達いなくなっちゃうんじゃないの?」

はじめ君

「・・・・はい。」

広崎調査官

「どうするの?友達いなくなっちゃってもいいの?」

はじめ君は,真正面の裁判官を見据えて,きっぱりと言いました。
はじめ君

「はい,仕方ないと思います。また一から友達を作りたいと思います。」

それから,広瀬調査官は宗子さんに質問を向けました。
広崎調査官

「お母さんにお聞きしたいのですが,これまで,はじめ君の問題行動にきちんと注意してきましたか?」

宗子さん

「は,はい。私なりに注意はしてきたつもりなのですが・・・・」

広崎調査官

「でも,結果的に今回の一件になってしまったところを見ると,今まで効果がなかったようですね。」

宗子さん

「本当に申し訳ありません。」

広崎調査官

「なぜ,伊達君はお母さんの注意を聞かなかったのでしょうか?」

宗子さん

「私が離婚して,子供たちに寂しい思いをさせたりしたと思っていて・・・・思い切って注意ができなかったということもあったかもしれません。」

「もっと伊達君としっかりと向き合ってください」と言って広瀬調査官は質問を終えました。最後に半蔵弁護士に質問の機会が与えられましたので,半蔵弁護士は,はじめ君に対して改めて今回の件の反省の気持ちや高校を退学になった後の生活などについて確認していきました。また,宗子さんに対しては,広瀬調査官が聞いたのと同じように今後の注意の仕方や生活をどう変えてゆくかといったことについて質問して終えました。
広崎調査官

「それでは,これで審理を終えて,審判を言い渡します。」

はじめ君と宗子さんは緊張した様子で聞き入ります。
広崎調査官

「少年伊達はじめを東京保護観察所の保護観察に付する,以上が審判です。少年院に行ってもらうということも考えましたが,今回は最初ということもあり,少年院までは行かせず,自宅で更生してもらう,そういうことにしました。分かりましたか?」

はじめ君

「はい。」

その後,はじめ君と宗子さんは,保護観察についての説明を受けるため別室に向かいました。半蔵弁護士は,別件があり,そこで別れることとしました。
宗子さん

「今回は,本当に有り難うございました。家に戻して頂けることになり,ホッとしました。これからきちんと注意して生活させたいと思います」

半蔵弁護士

「色々とお疲れ様でした。また落ち着いたら連絡してください。」

その後,半蔵弁護士が連絡を受けたところでは,はじめ君は,日中はアルバイトをしながら青葉高校の夜間を目指して勉強に励んでいるということです(完)。

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