※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


伊達はじめ君の少年事件〜その3

その後,はじめ君は逮捕に引き続いて,勾留され,さらに勾留延長もされることになりました。半蔵弁護士は,勾留,勾留延長について検察官らに対して必要なしとの意見を述べ阻止しようとしましたが,退けられました。半蔵弁護士が検察官に確認したところ,勾留延長の満期日である12月22日に家庭裁判所に送致するということでした。少年事件の場合,起訴猶予ということがなく,全件,家庭裁判所に事件送致され,家裁の裁判官が少年鑑別所送致とするか在宅で少年審判を受けさせるかについて決めるということになっています(全件送致主義)。
半蔵弁護士は,送致日に母親の宗子さんと家裁に同行し,観護措置(少年鑑別所送致)をしないように意見を述べる方針としました。その打合せのため,宗子さんに事務所に来てもらいました。
宗子さん「このたびは,どうも,お手数おかけしています」

半蔵弁護士

「はじめ君との面会の具合はどうですか?」

逮捕後,宗子さんは,時間を見つけてはじめ君の面会に行っているということでした。
宗子さん

「はい,昨日も行ってみましたが,元気にしている様子でした」

半蔵弁護士

「私も,何度も面会に行っていますが,少しづつ変化も現れてきているような気がします。」

宗子さん

「それと,半蔵弁護士さんの指示で,はじめが万引きしてしまったお店に謝りに行きました。」

半蔵弁護士

「そうですか,反応はどうでしたか?」

宗子さん

「店長は『もう二度としないと約束してくれればそれでいい』と仰ってくれました。ただ,心ばかり迷惑料とということでお持ちしたのですが,それは受け取ってもらえませんでした。」

半蔵弁護士からも,お店に対してははじめ君の謝罪文と共に,示談の申入れをしましたが,コンビニ本部の方針もあり,それは受けられないという返答でした。
半蔵弁護士

「そうですか,でも,仕方ありません。謝罪に行ったという事実が大切かと思います。」

宗子さん

「はい。」

半蔵弁護士

「はじめ君がほかにも万引きしていると行っていた他のお店については,どうでしたか?」

宗子さん

「はい,はじめが万引きしたということでいくつかお店の名前を挙げていましたので,恥ずかしかったのですが,いくつか思い切って回ってみたのですが,お店の方としては『証拠もないし,いまさらそんなこと言われても困る』ということで相手にしてもらえませんでした。」

半蔵弁護士

「分かりました。有り難うございました。ところで,明日は,裁判所にはお越し頂けるということで大丈夫でしょうか?」

宗子さん

「はい,明日の1時でしたね。パートの方は何とか休みを頂きましたので大丈夫です。明日は,どんなことをするのでしょう? 」

半蔵弁護士

「明日は,家裁送致といって,はじめ君の身柄やこれまで取り調べた証拠資料が全部家裁に送られてくることになります。それを見て,裁判官が,はじめ君を少年鑑別所に送るかどうかを決めるという手続きがあるんです。」

宗子さん

「はい。鑑別所に行ってしまう確率はどのくらいなんでしょうか?」

半蔵弁護士

「残念ですが,率直に言って,今回の件に関しては他にも万引きしていたりということもありますし,なかなか厳しいところだとは思います。」

宗子さん

「そうですか・・・ただ,やれるだけのことはお願いしたいと思っています。」

半蔵弁護士

「分かりました。裁判所には,明日,裁判官が観護措置の決定する前に面接してもらいたいということは事前に連絡しておきたいと思います。」

宗子さん

「はい,ぜひお願いします。」

その後,半蔵弁護士は,宗子さんと家族環境や今後のはじめ君の教育方針などについて話し合いをつづけました。宗子さんが帰った後,半蔵弁護士は意見書を書き上げて,事前に家裁の少年部にファクスを入れておきました。 翌日の朝,家裁で待ち合わせた半蔵弁護士と宗子さんは,2人で少年部に行き,少年事件の付添人となるために半蔵弁護士が事前にはじめ君から貰っておいた付添人選任届や意見書のクリーンコピーなどを提出しました。少年部の書記官から,「事前に調査官や裁判官と面接を希望しますか?」と言われましたので,半蔵弁護士は「勿論お願いします」と答えました。 暫く待っていると,男性の家裁の調査官かやってきて,半蔵弁護士と宗子さんは別室で話しを聞いてもらうことになりました。
調査官

「どうも,初めまして。私は,今回の監護措置に関して担当する調査官の南部です。」

半蔵弁護士

「このたびは,どうぞ宜しくお願いします。」

宗子さん

「今回は大変ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。」

調査官

「はい。それで,半蔵弁護士さんからの意見書は事前に読ませて頂きました。ほかに何か付け加えることはありますでしょうか?」

半蔵弁護士は,はじめ君が謝罪文を書くなど反省を深めていることや宗子さんが今回直接万引き被害を受けたお店やそれ以外のお店も謝罪に回ったことや,年末に年始は自宅に戻してほしいという希望が強いこと,宗子さんが仕事を休んで裁判所まで来ており監督が期待できることなどを,改めて,口頭で述べました。
調査官

「分かりました。裁判官には改めてお伝えしておきます。ところで,お母さんにお尋ねしたいのですが・・・」

宗子さん

「はい,なんでしょう?」

調査官

「通っている高校には今回の件は,どう伝えているのですか?」

宗子さん

「はい,捕まっている期間も長くなってしまい隠し通すこともできませんでしたので,ありのままに伝えています。」

調査官

「高校は退学ということになってしまうとか,そういった話は出ていますか?」

宗子さん

「いえ,まだそこまでの話にはなっていなくて,今回の処分がきちんと出たら判断するということになっています」

調査官

「そうですか,分かりました。」

調査官との面談が終わると,今度は,半蔵弁護士だけが裁判官室に呼ばれました。
裁判官

「はい,裁判官の最上です。半蔵弁護士さんの意見書は事前に読んでいますが,面接ご希望ということでしたので,付け加えることがありましたらお願いします。」

半蔵弁護士

「はい,お忙しいところすみません。」

裁判官の机には山のような捜査資料が積まれています。どうやら,今日は,はじめ君だけなく,片倉君ほかの共犯少年たちもすべて家裁送致になっており,他の共犯少年たちの供述調書などもすべて送られてきており,大変な分量になっているようです。捜査が終わるまでは半蔵弁護士はそれらの資料は見ることができませんので,どんなことが書かれてあるのかはよくは分かりません。 半蔵弁護士は,裁判官に伝えたい点を口頭で述べましたが,裁判官からは特に質問はなく,待合室に戻りました。 待合室に戻ると,かなり長い間待つことになりました。
宗子さん

「ずいぶん長いんですね」

半蔵弁護士

「そうですね,今日初めて目にする大量の捜査資料を読み込んでから少年たちと会って判断することになるので,時間もかかるのでしょうね。」

3時間くらいは待ったでしょうか。 半蔵弁護士たちは裁判所の職員から呼ばれましたが,結果は,少年院送致でした。長く待たされた割にはあっさりとしたものでした。 宗子さんはがっかりはしていましたが,事前に覚悟していたといこともあり,それほど落ち込んではいない様子でした。
半蔵弁護士

「残念でした。今後は,少年審判に向けて準備していきましょう。」

宗子さん

「はい。仕方ありません。」


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