※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


伊達はじめ君の少年事件〜その2

半蔵弁護士が古宿警察署に到着しました。1階の受付にいた警察官に当番弁護士の面会に来た旨を告げます。受付から留置係というところに内線で連絡を取ってもらいます。先客(弁護士が接見に訪れた際に,先に弁護士が接見していることがあり,ずいぶんと待たされることがあります。)はいませんでした。半蔵弁護士は(先客がいなくてよかった)と胸をなで下ろしながら,留置係に向かいました。留置係で接見申込みの用紙に記入し,弁護士バッヂで身分確認を受けた後,接見室に入り,一人で伊達はじめ君が入室するのを待ちました(弁護士は,警察官の立会いなく被疑者と接見することが許されています・秘密交通権)。
古宿警察署 接見室に伊達はじめ君が入室しました。上下ジャージ姿で,大人しそうな感じの少年です。半蔵弁護士を見ると,軽く会釈したようですが,覇気がないような感じがしないでもありません。
半蔵弁護士

「伊達はじめ君ですね?」

はじめ君は軽くうなずきました。見知らぬ弁護士がやってきたためか,話しずらそうです。半蔵弁護士は,はじめ君に年齢や住所などを尋ねた後,当番弁護士という制度のことや,お母さんの宗子さんから呼ばれてやってきたことなどを話しました。はじめ君は,「はあ」とか「はい」とか答えるばかりのようです。
半蔵弁護士

「それで,今回捕まったことなんだけれどもね。万引きしたと聞いているのだけれど,本当なんだろうかね?」

はじめ君

「はい。」

半蔵弁護士

「なに盗んだの?」

はじめ君

「ジュース・・・です。あと,パンもです」

半蔵弁護士

「お金,持ってなかったの?」

はじめ君

「・・・200円くらいはもってました」

半蔵弁護士

「200円あれば,パンとジュースくらい,何とか買えたんじゃないの?パンだけにするとかさ。」

はじめ君

「いやあ,前からよくやってたんで」

半蔵弁護士

「なにを?」

はじめ君

「いや,万引きを。」

半蔵弁護士

「いつ頃からやってるの?」

はじめ君

「何をですか?」

半蔵弁護士

「いや,万引きを」

はじめ君

「・・・・中学の終わりくらいから」

半蔵弁護士

「これまで何回位やったの?」

はじめ君

「何をですか?」

半蔵弁護士

「いや,万引きを」

はじめ君

「・・・・いや,ちょっとよく分かんないっす」

半蔵弁護士

「いままで警察に捕まったことはあるの?」

はじめ君

「万引きでですか?」

半蔵弁護士

「いや,万引きも含めて,警察に捕まったこと,あるの?」

はじめ君

「捕まったことはないっす,つか,公園とかで騒いだりしてホドウされたことはあります」

半蔵弁護士

「ああ,補導ね。」

はじめ君の話によると,これまで補導されたことは数多くあるようですが,逮捕されたことまではなかったようです。補導されるたびに,警察から母親の宗子さんに連絡がゆき,引き取られていたようです。
半蔵弁護士

「お母さん,知ってるの」

はじめ君

「何をですか?」

半蔵弁護士

「いや,万引きのことを」

はじめ君

「それは知らないと思います」

半蔵弁護士

「お母さん,どう思うかね?」

はじめ君

「何をですか?」

半蔵弁護士

「いや,今回捕まったことを」

はじめ君

「・・・・・・・・・・・」

半蔵弁護士は,少し語気を強めて言いました。
半蔵弁護士

「お母さん,どう思うかね?」

はじめ君

「・・・・・・。悲しむと思います。」

半蔵弁護士

「はじめ君,君,反省しているの?」

はじめ君

「はい。」

半蔵弁護士

「本当に?」

はじめ君

「はい。」

半蔵弁護士は,敢えて否定はしませんでした。その上で,少し話題を変えてみます。
半蔵弁護士

「ところで,今回,捕まったのは君だけではないんでしょう?」

はじめ君

「はい。ほかに友達3人捕まりました。」

半蔵弁護士

「お店出たところですぐに捕まったの?」

はじめ君

「そうっす。はじめから目を付けられていたみたいで」

はじめ君の話では,捕まったお店は新しくできたコンビニで,万引きするのは初めてだったということです。また,これまで,特定の万引きするお店を決めてしていたことはないということでした。
半蔵弁護士

「友達の名前は?」

はじめ君

「一人は,片倉一郎君です。」

片倉一郎君は,はじめ君と同じ船台高校の同じ学年ということです。但し,クラスは違うということでした。高校に入ってから親しくなったと言います。
半蔵弁護士

「ほかには?」

はじめ君

「一人は,佐竹義男君です。」

佐竹義男君は,中退して高校には行っていないということでした。もともと,片倉君の友人で,片倉君のつながりで親しくなったといいます。友人仲間では一番大人びていて,捕まったのは今回だけではなさそうです。
半蔵弁護士

「最後の一人は?」

はじめ君

「支倉シエスタ君です。」

支倉シエスタ君は,お父さんがスペインの人でお母さんは日本人だということでした。支倉君も中退して高校には行っていないということでした。これも,もともと,片倉君の友人で,片倉君のつながりで親しくなったといいます。
半蔵弁護士

「4人はいつもつるんで遊んでるの?」

はじめ君

「いつも4人ってことはないけど,割とよく遊ぶかな」

半蔵弁護士

「万引きするのも,この4人かな?」

はじめ君

「この4人とは限らないけど」

他にも万引き仲間はいるようです。
半蔵弁護士

「4人の力関係はどんなものかな?」

はじめ君

「力関係?」

半蔵弁護士

「いや,誰かが一番偉くて,君がこき使われているとかさ」

はじめ君

「ああ,そういうことはないっす。みんなテキトーに付き合ってるだけなんで」

それから,半蔵弁護士は,事件のことや,はじめ君の家族のこと,学校のことなどを聞きました。それから,被疑者弁護士援助制度という制度を使って弁護人となることとし,弁護人選任届を貰いました。
半蔵弁護士

「それと,今度来る時までにやっておいてもらいたいことがあるんだけど」

はじめ君

「?」

半蔵弁護士

「いまから便箋を差し入れておくから,きちんとお店に宛てた反省文を書いておいてもらいたいんだ」

はじめ君

「反省文ですか?でも,どう書いていいのか・・・」

はじめ君が,反省文の書き方が分からないというので,半蔵弁護士は反省文の書き方をアドバイスしました。しかし,きちんと自分の頭で書いてもらわないと意味がありません。
はじめ君

「あの,質問,いいっすか?」

半蔵弁護士

「うん?」

はじめ君

「いつ頃,出れるんすか?」

半蔵弁護士

「いつ頃だと思う?」

はじめ君

「いやあ・・・」

半蔵弁護士は,はじめ君に,この件は勾留される可能性が高く,また,勾留後は少年鑑別所に送致になる可能性も高いことなどを説明しました。そうすると,最終的な家庭裁判所の審判は約2か月程度先になる可能性があることを伝えました。
はじめ君

「僕,少年院って行くんですか?」

半蔵弁護士

「どう思う?」

はじめ君

「いやあ・・・」

半蔵弁護士は,少年院に行くことになるかどうかは裁判官が決めることだと言いました。さらに,これまでの補導歴や万引きの余罪のことなどを考えると,捕まったのが初めてだとしても,少年院に行かなくて済むと思うのは間違いだと釘を刺しました。
半蔵弁護士

「とにかく,これから,きちんと反省して何が問題だったのか考えていかないと行けないと思うよ。」

はじめ君

「はい。」

最後に半蔵弁護士は,お母さんの宗子さんからの伝言などを伝えて,古宿警察署を後にしました。

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