※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


日野都美子さんの交通事故相談1

(あっ!)と思った瞬間には、もう遅かったのです。平成21年3月1日の夕方、すみれ町居住で主婦をしている日野都美子さん(36歳)は、歩いて、幼稚園の退園時間を迎えた娘を迎えに行くところでした。  都美子さんはいつもよく通る交差点に差し掛かったところ、右手から進行してきた普通乗用自動車と衝突してしまったのでした。  都美子さんは自転車ごと転倒して、右肩関節靭帯の損傷や左手の捻挫のけがをしてしまいました。  乗用車を運転していたのは、近所に住む足利政子さん(52歳)で、自動車は傷がついたものの、足利さんにけがはありませんでした。  事故現場に警察や救急車も臨場してものものしい雰囲気になりましたが、都美子さんは歩いて救急車に乗り込み、近くの病院に搬送されました。  足利さんの自動車には、みなと損害保険の自動車事故人身賠償保険が付帯されていたため、日野さんはみなと損保の担当者との間で損害賠償の交渉をすることになりました。
(みなと損害保険の担当者との電話)  幸い都美子さんは入院することもなく、すぐにその日のうちに家に戻ることができました。ただ、左肩の痛みが激しく、しばらく通院することになってしまいました。事故から暫くの間は都美子さんは改めて警察の現場検証に立ち会ったり忙しかったのですが、そんな中、みなと損害保険の担当者から電話で連絡が入ったようです。
山名氏

「こちら、みなと損害保険で、今回の事故の示談交渉を担当させて頂くことになった山名です。宜しくお願いします。お怪我の具合はいかがでしょうか?」

都美子さん

「ええ、まだ、右の方がだいぶ痛くて、、、」

山名氏

「それは大変お気の毒で申し訳なく思っています。今回の事故の件については、謄写が責任を持って対応いたしますので、何なりとご連絡ください」

山名氏は感じの良い方で、このような事故に遭ったことが初めての都美子さんとしてはホッとする思いでした。 (示談交渉の開始)  その後、自動車を運転していた足利さんの刑事処分については不起訴となったと聞きました。左肩の痛みが相変わらず改善しなかったため、都美子さんは平成21年3月1日の事故当日から、結局、平成22年9月25日までの間、通院を要することになってしまいました。都美子さんとしては、それでもまだ右肩の違和感は残っていたのですが、山名氏から「医師に確かめたところ、これ以上の治療は望めないと言っている」との連絡があり、医師とも相談して、平成22年9月25日に治療終了としたのでした。医師の先生に診断書を書いてもらい、自賠責の後遺症の等級認定を申請したところ14級9号(局部に神経症状を残すもの)という通知でした。  それから暫くして、みなと損害保険から都美子さん宛てに一通の郵便が届きました。損害賠償の計算書という書類で、今回の事故の損害賠償金として120万2000円支払うという内容になっていました。損害の内訳としては次の通り記載されていました。 【損害の内訳】  治療費 25万円  通院費 9万円  休業損害 18万円  通院慰謝料 120万円  逸失利益 45万円  後遺症慰謝料 40万円  すべて初めての経験だった都美子さんとしては(こんなものかなあ)という気持ちとともに、念のため、確認してみようと思い、山名氏に電話をかけてみました。
都美子さん

「もしもし、すみれ町の日野都美子と申しますが。。」

山名氏

「ああ、日野様ですか。当社からの通知が届きましたでしょうか」

都美子さん

「はい、それで何点か確認させて頂けたいと思ってお電話差し上げたのですが」

山名氏

「はい、もちろんです。どうぞ。」

 心なしか、都美子さんには山名氏の声色が変わったような気がしました。
都美子さん

「損害の中の治療費と通院費というのは分かりましたが、休業損害というのがちょっとよく分からないのですけれども」

山名氏

「ああ、休業損害ですね。それは、算出の仕方が当社の方で決まっていて機械的に算出されるようになっているんです。日野様の場合、専業主婦をされていらっしゃるということなので、日額を5700円として計算させて頂きました」

都美子さん

「なるほど、1日5700円ということで決まっているんですね。。それで、休業期間が平成21年3月1日から30日ということになっているのはなぜなんでしょう?」

山名氏

「はい、それは、右腕のギプスされていたのがちょうど30日で、その間は全く家事もおできにならなかったということで100パーセントの主婦業の休業ということで見させて頂きました」

都美子さん

「ええ?でも、私は、ギプスが取れた後もずっと通院していて、その間も右肩の痛みがひどくて家事ができなくて困っていたんですが。。」

山名氏

「ええ、よく分かりますよ。ただ、なかなか、法的にと言いますか、損害賠償の算定方法というのは結構きっちりときまっているものなんですよー。」

 都美子さんとしても、みなと損害保険のような有名な損害保険会社の担当者から計算方法がきっちりと決まっていると言われてしまうと反論することができません。  都美子さんは次の疑問に移ることにしました。
都美子さん

「ええっと、、それでは、通院慰謝料の120万円というのはどうやって決まったんでしょうか?」

山名氏

「ああ、はいはい。これももう定額で決まっていて、日野様の場合7か月の通院ということで算出したものなんですよ」

都美子さん

「えっと、私は確か19か月くらい通院したと思うんですけど。。」

山名氏「ああ、それは最初から最後までの期間ですよね。そうではなくて、日野様の場合実際に通院した日は230日くらいでしたので、これで行けば大体7か月ですよね!?」

都美子さん

「あ、はい。。」

 どうも、山名氏の回答に対して都美子さんとしては反論ができない雰囲気になっています。
都美子さん「それで、逸失利益というのは?」

山名氏

「ええ、ええ。これは、日野様が後遺症として14級の認定を受けられたでしょう?この場合、労働能力喪失率が5パーセントと定められていましてね、全国の女声の平均賃金の統計をもとに算出させて頂いたものなんです。大変申し訳ないのですが、これももう決まった計算方法がありまして。」

都美子さん

「そうなんですか、、それで、最後の後遺症慰謝料というのは?」

山名氏

「うん、これも14級という後遺症慰謝料として定額で決まっているものなんですね。」

 都美子さんは、何となく悲しい気持ちになってきました。いまでも、自分の右肩は痛みが残っていて苦しんでいるというのに、金額で杓子定規に決まっていくことに納得ができない気持ちもありました。  最後に都美子さんは、計算書に記載があった過失相殺ということについて質問しました。  山名氏の回答としては、交通事故ではどちらかが一方的に悪いということはないので、双方の過失を斟酌して損害額から減じることになるが、今回の事故は交差点の事故ということもあり、都美子さんの過失を40バーセトンとして算定して、損害額全体から差し引いたということでした。この過失相殺の方法ももう決まった方法があるのだということでした。  結局、損害額合計の257万円から40パーセント分を引いて、支払済みの治療費と通院費を引いた残りが120万2000円だというのが山名氏の説明でした。

日野都美子さんの交通事故相談 その2 日野都美子さんの交通事故相談 その3