成年後見・保佐・補助に関する裁判例

【裁判例】 準禁治産(現保佐)の開始についての認定の一事例 東京高等裁判所 平成1年9月21日
後見レベルの方については判断能力が相当落ちていることが多く、判断能力自体についてあまり問題にならないことも多く、また、補助については本人の同意がなければ開始すらされませんので判断能力が問題となって開始自体について争いになることもあまりありません。 保佐については、開始自体については本人の同意が必要ないとされている一方で、まだ本人の判断能力が残存していることも多く、判断能力の認定について本格的に争われることが多い類型です。 旧法下の事件ですが、判断能力について正面から判断し、原審(家庭裁判所)による準禁治産(保佐)の開始の決定を覆した裁判例です。 【事案の概要】(決定文より) 原審では2つの鑑定がされており,いずれも結論としては「心神耗弱」とされていました。 そして,各鑑定では次のような指摘がされていました。 1 原審の鑑定で,「心神耗弱」の根拠とされたのは次のようなものでした。 ・現在症として,脳神経系では両視野に左同名半盲が認められる ・頭部CTスキャン検査により,右側の中大脳動脈領域に限局した陳旧性脳梗塞像が認められると同時に両側特に右側の著名な側脳室の拡大を伴つた全般的な脳萎縮像を呈している ・両側内頚動脈及び脳底動脈にも部分的な動脈硬化像が見受けられる ・脳波検査により,安静閉眼時の基礎活動は頭蓋前半部優勢な30マイクロボルト8〜9ヘルツの広範に拡がるアルフア活動でかなり連続的に出現するなど全般的な機能低下及び右側頭,頭頂,中心領に限局する異常を示唆する所見がみられる ・自己中心的,独善的に自己の意見を主張し,人間不信が強く,対人関係では敵対的,他罰的な態度を取りがちである ・本人が不必要な大量の買い物をし家族に送つたこと ・多額の株式投資をして多額の損失を受けたこと ・リゾートホテルを新築して毎年6000万円ほどの赤字を出すようになつたこと ・本人が2回にわたり家出をし,ホテル,マンシヨンに独り暮らしをし,妻に対する離婚調停の申立て,相手方に対する告訴や訴訟の提起,自己の全遺産を○○学園に寄付する旨の遺言書の作成,本人の自筆又はワープロによる多数の宣伝文書の配布などがあつたとし,全般的観察による精神的現症は,本人は誇大傾向,自尊心増大,自制減弱と同時に相手方,妻らへの敵対感情,被害念慮のみられる軽繰状態にあり,同時に老年期の器質過程に由来する現実判断能力,思考能力の柔軟性の低下を来たしていて,過去のできごとに捕われて執着し,頑固で,現実を吟味,対応する能力が減退している ・本人は,自我復旧動向に基づき息子である相手方に対し頑強執拗に失地奪回闘争をなすもので,これは闘争パラノイアに準ずるものである ・昭和59年4月から繰病が続いて昭和63年7月にぱ軽微になりつつあるが,向後平常になるか,再びうつ状態になるかは予断を許さず,繰うつ病,特に繰病による事実認識,判断力の障害は顕著であり,現在の総合的判断力の障害には軽微な老年痴呆も関与しているものと想定されること 2 一方で,原審の鑑定や提出された医師の意見には,次のような記述もされていました。 ・本人の家族内には特記すべき既往歴,遺伝歴を認められない ・精神障害に関する濃厚な遺伝負因の存在は否定しうる ・習慣化した日常生活面では,行動,判断は比較的良好に保たれており,迂遠さ,保続傾向と了解の悪さを除いては,特別な言動もなく,人格の核心は比較的保持されている ・幻聴,幻視などのような知覚異常は認められない ・離人症,させられ体験などの自我意識障害の存在は認め難い ・繰状態でみられる観念奔逸,うつ状態で体験される思考抑制,精神分裂症に特徴的な滅裂思考及び思考途絶などは全く認められない ・CTスキヤン所見では脳全体に年齢相応の萎縮が見られるがその程度は軽度である ・脳梗塞及びパーキンソン症候群と診断されたが入院治療により奇蹟的に回復している 3 高裁は,前記2の鑑定人の記述や医師の意見の外,本人が息子らに対してなした刑事告訴や訴状などの内容も検討した結果,本人が「心神耗弱」であるとまでは言えないとしました。  なお,当時は,保佐については「浪費者」についても適用されていましたので,この点を審理するために差し戻されています。 【掲載誌】  家庭裁判月報42巻2号166頁
【法律相談QA】 法律相談の時間の目安はどのくらいですか? メールで相談することはできますか? 法律相談の料金はいくらですか? 費用が幾らくらいかかるのか不安です


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