※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


西郷守孝さんの民事保全〜その4

裁判所の仮差押え命令が,大久保工業の売掛先である自治体に届いたと思われる翌日,大久保社長から半蔵弁護士に対し,電話で連絡がありました。
半蔵弁護士が電話に出ると,大久保社長は,ずいぶんと興奮しているようです。
大久保社長

「ああ,あんたが半蔵弁護士さんか。」

半蔵弁護士

「はい,私が半蔵弁護士です。」

大久保社長

「今回はとんでもないことしてくれたなあ!」

半蔵弁護士

「何がです?」

大久保社長

「何がですじゃないよ!話し合いも何もなく,いきなり仮差押えなんか掛けやがって!こっちの信用はがた落ちじゃないか!」

西郷舗装に支払しない自分のことは棚に上げてずいぶんと勝手な言いぐさです。
半蔵弁護士

「それは,あなたが約束した支払いをしないからでしょう。こちらは法的に則って手続きしたまでです。」

大久保社長

「ふざけるなよ!」

半蔵弁護士

「それで,ご用件はなんなんです?」

大久保社長

「取り下げてほしい」

半蔵弁護士

「は?」

大久保社長

「いや,だから,今回の仮差押えを取り下げてほしいんだ」

半蔵弁護士

「それだけですか?」

大久保社長

「は?」

半蔵弁護士

「いやいや,これで私が仮差押えを取り下げたら,何のために手続き下野か全く意味がなくなってしまう。そんなことはできるわけがない」

大久保社長

「しかし,自治体の方からは,西郷舗装とよく話し合うように言われているんだ」

半蔵弁護士

「そりゃ,自治体はそう言うでしょうよ。未払の500万円はどうするつもりなんです?取り下げるかどうかはその条件次第です。」

大久保社長

「今すぐ全額は無理なんだ。」

半蔵弁護士

「それは私には関係がない。払わないのなら取り下げない,ただそれだけです」

大久保社長

「しかしね,今回仮差押えを打たれた売掛が入ってこないと,下手すると倒産するかもしれないんだ。」

ここは半蔵弁護士にとっても困るところです。仮差押えはあくまでも仮の差押ですので,債務者が倒産した場合には破産管財人により仮差押えが取り消されてしまうことになります。この点は,西郷社長にも事前にリスクとしてよく説明していたところでした。もっとも,大久保工業が破産するかどうかというのは,半蔵弁護士にもよく分からないところです。
半蔵弁護士

「とにかく,私も子供の使いではないんだ。まったく支払しないで取り下げてくれと言われてもそれは無理だ。こちらが取り下げられる条件をきちんと提示してください。」

大久保社長

「わかった。」

結局,その後,大久保工業には代理人として弁護士が付き,半蔵弁護士との交渉になりました。半蔵弁護士は,西郷社長とも相談の上,300万円を側近で支払った貰い,残金については100万円づつの約束手形を切ってもらうことにしました。その上で,仮差押えについては取り下げるということで合意書を取り交わしました。その際,西郷舗装が供託した100万円については,西郷舗装が取り戻すといいう書類を貰い受け,供託金を取り戻しました。
すべてが終わり,半蔵弁護士は西郷社長に電話で報告をしました。
西郷社長

「どうも,今回は有り難うございました」

半蔵弁護士

「いえ,こちらこそ。でも,次回からは,きちんとした与信管理が必要ですね。やっぱり,どんぶり勘定で経営していると,思わぬ落とし穴がありそうです」

西郷社長

「そうですね。川路からもずいぶんと怒られていますので,請け負う際はきちんと判断したいと思います」

その後,大久保工業からは,無事に残金の手形金も入金されたとの連絡がありました(完)。

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