※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


里見豊さんの建物明渡し〜その1

里見豊さん(53歳)の父親から相続した千葉県内の貸アパートを所有していました。木造で4部屋しかない古いアパートでしたが、駅から割と近いということもあってそれなりに部屋は埋まっていたのですが、そのうち201号を貸していた北条一郎という賃借人の家賃の滞納のことで悩んでいました。 月額5万円の家賃ですが、北条がここの6か月分の家賃を滞納して、里見さんが部屋を訪ねても居留守を使ったりするようになったのです。 里見さんは困って、父親の時代からの知り合いだった半蔵弁護士の下を尋ねました。
半蔵弁護士

「このたびは、お世話になります。亡くなったお父様には大変お世話になっていました」

里見さん

「いえいえ、生前、父も半蔵弁護士さんには大変お世話になったと申していました。」

半蔵弁護士は、まず、里見さんが持参した貸アパートの土地建物の現在事項証明書を確認します。アパートが建っている敷地もアパートも、里見豊さんの単独の名義となっています。 半蔵弁護士が、本題の事情を尋ねると、里見さんが事情を語り始めました。
里見さん

「今回ご相談したいのは私が父から引き継いだ貸アパートの201号室を貸している北条一郎という賃借人の件です。今が平成22年10月ですが、5月からの家賃が全く支払われていないのです」

半蔵弁護士

「契約書はお持ちになりましたか?」

里見さん

「はい、これです」

 半蔵弁護士は、里見さんが差し出した契約書を手に取って確認してみました。契約書は一番初めの契約書が平成14年2月1日付となっており、その後2年ごとに更新されているものでした。最新の更新契約書は今年平成22年2月1日付となっており、契約者は賃貸人が里見豊さん、賃借人が北条一郎となっています。最初の賃貸借契約書にもその後のどの更新契約書にも、連帯保証人の欄には記載がありませんでした。  家賃は前家賃を前月末日までに支払うという内容になっています。 北条一郎は今年2月1日に契約を更新してから、ほどなくして支払をしなくなってしまったようです。
半蔵弁護士

「北条が家賃の支払いを滞ったというのは、今回が初めてなのでしょうか?」

里見さん

「いえ、以前にも家賃の支払いが遅れたりということはたびたびありました。」

半蔵弁護士

「家賃の支払いは振込ですか?」

里見さん

「はい、貸アパートの名前が里見荘というのですが、里見荘家賃振込口という専用の口座を作って、すべての賃借人さんにその口座に振り込んでもらっています

半蔵弁護士

「なるほど、その口座を見れば支払いが遅れたかどうかということがすぐにわかるのですね?」

里見

「はい、父が亡くなったのが平成20年11月でしたが、それ以前もそのあともずっとこの口座で管理しています。」

半蔵弁護士

「以前の滞納というのはいつ頃のどんな状況だったのでしょうか?」

里見

「はい、事前に連絡したさいにまとめてきてほしいと言われていましたので、簡単に表にしてみました」

半蔵弁護士は里見さんがまとめてきてくれたペーパーを受け取ってみてみました。それによると、北条一郎は、入居した翌年の平成15年の8月には既に延滞を始めており、ひどい時には2〜3か月分家賃を滞納してしまうということもあったようです。ただ、これまでは遅れながらも家賃を支払っていたようです。
半蔵弁護士

「北条はこれまでにも家賃を滞納していたようですが、退去は求めなかったのですか?」

里見さん

「う〜ん、そうですね。これまでは遅れながらも家賃を払っていましたし、父もそんなにうるさく言わなかったということはあったと思います。私は、『そんなんじゃだめだから、早く出て行ってもらった方がいい』とは言っていたのですが。」

半蔵弁護士

「お父様がなくって、里見さんが管理を引き継いだ後も家賃の滞納はあったのですか?」

里見さん

「はい、父が平成20年11月に亡くなり、今年の平成22年2月1日に契約更新するまでは家賃滞納がなかったのですが、更新した後の5月分から滞納が始まってしまいました。」

半蔵弁護士

「支払いの督促は誰がどのようにしていたのですか?」

里見さん

「私が電話をかけたり、直接部屋に行ったりして督促していました。」

半蔵弁護士

「北条はどんな対応だったのですか?」

里見さん

「はい、初めのうちは『もう少し待ってください』とか言っていました。それでも支払いがないので、私が強く言うと、『仕事がうまくいっていない』『亡くなったお父さんは待ってくれていた』とか言い出して、ここ1か月くらいは私が電話しても呼び鈴を押しても出ない状態になってしまいました」

半蔵弁護士

「ところで、最初の賃貸借契約書にもその後の更新契約書に連帯保証人の記載がありませんね、これはどういうことですか?」

里見さん

「う〜ん、その点も私の父が人が良いというのか。。お恥ずかしいのですが、父が直接契約のやり取りなどもやっていたものですから、最初から連帯保証人を取っていなかったようなのです」

半蔵弁護士

「平成18年にお父様が亡くなった後は里見さんが引き継いだのですよね?更新契約の際は連帯保証は求めなかったのですか?」

里見さん

「はい、求めはしたのですが、最初から連帯保証が付いていなかった弱みで、あまり強くも言えずにズルズルとこれまで来てしまいました」

 里見さんによると、亡くなった里見さんのお父さんは、貸アパートが建てられた最初のうちは不動産業者に管理を依頼していたようなのですが、その後、自分で契約のことなどを取り仕切るようになり、連帯保証人なども取らないまま契約してしまうこともあったようです。  賃貸借契約の際に連帯保証人を付けることは常識のように思われるかもしれませんが、古いアパートなどの場合、意外とこういった里見さんのようなケースがあったり、連帯保証人を取っていたとしても、賃借人本人が連帯保証人欄に署名押印してしまっていて、連帯保証として効力がない場合も多々見受けられるのです。
半蔵弁護士はつぎに賃借人の北条一郎のことについて尋ねていきました

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