※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。
※内容は、不定期・随時に更新しています。
「賃借人の北条一郎というのは、何をしている人なのですか?平成14年の賃貸借契約の申込書には『大工』と書いてありますが。」
「書いてある通り、もともとは個人で大工をしていたようです。仕事があるたびにどこかの親方と個人契約して、現場で仕事をするという形態だったようですね。しかし、最近は家にいることも多いようですし、仕事はあまりやっていないように思うのですが。」
「家賃の支払いが途切れたりしているのも、仕事に波があるということなのでしょうかね。」
「はい、恐らくはそういうことだと思います」
「北条は、いま一人暮らしでしょうか?」
「はい、これまでにも特に同居人はいなかったと思います。」
「分かりました。ただ、念のため、私の方で北条の住民票を取り寄せてみましょう。」
「里見さんが北条と最後に会話したのはいつなのですか?」
「今年(平成22年)の8月の半ばです。5月分からの家賃が溜まっていましたので、直接、北条に部屋に行って催促しました。本人が部屋にいたので、家賃の催促をすると、『親父さんは待ってくれた。』とか『もう少ししたら支払う』と言って埒があきませんでした。」
「その後は北条とは接触できていないのですか?」
「はい、その後も2回くらい直接部屋を訪ねましたが、居留守を使っているのか、出てきませんでした。置手紙をしたり、電話もかけてみましたが、反応がありませんでした。」
「置手紙というのはどんな内容の置手紙をしたのですか?」
「家賃が溜まっているので支払ってくれという内容です。」
「里見さんから、北条に対しては、賃貸借契約の解除はしましたか?」
「解除ですか?いえ、それはまだしていません。」
「そうですか、契約書によると賃料を1回でも怠ったときは直ちに解除できるとあります。5月分から連続して6か月分も家賃を支払っていないのですから、賃貸借契約の解除をすべきだと思います。」
「そうですか、そういったことも含めて、半蔵弁護士さんにお願いしたいのですが。」
北条は半蔵弁護士さんからの内容証明郵便で部屋を明け渡してくれるでしょうか?
「うーん。それはケースバイケースですね。北条はお金がなさそうだから、退去したくても退去できないということもあるかもしれませんね。」
「訴訟になった場合には、実際に明け渡されるまでにどれくらい時間がかかるのでしょうか?」
「そうですね、訴状を裁判所に提出すると約1か月後に第一回目の口頭弁論が開かれます。ここで、北条がどんな対応をしてくるかによってその後の展開が大きく分かれてきます。」
「どういうことでしょうか?」
「う〜ん、そうすると、いまからどんなに急いでも、強制執行で明け渡してもらうのには2、3か月くらいはかかりそうですね。北条が争ってきたらどうなるのですか?」
「北条がどんな争い方をするかにもよりますが、『修繕が必要だったのにしてくれなかったので家賃を支払う必要はない』とかいろいろと弁解してくる賃借人もいます。弁解の内容にもよるのですが、争ってきた場合には、すんなりと第一回目で終わりということにはならないでしょうね。それと・・・」
「それと?」
「第一回目で北条が争わなかったとしても、北条が明渡の猶予を希望したりした場合には、裁判所が和解を勧めてくることもあります」
「えー!和解なんて考えられません。」
「まあまあ、強制」執行だけを目標にするというのが必ずしも得とは言えないこともあります。強制執行になってしまえば、その費用は里見さんで負担しなければなりませんが、仮に和解をして明渡期限を定めて、その期限までに北条が自分の費用で自主的に出て行ってくれれば、里見さんとしては経済的には助かることになりますね。」
「裁判や強制執行の費用は北条の負担ではないのですか?」
「法的には北条の負担なのですが、現実的には北条には金がないと思いますので、実際に回収するということは困難なのです。」
「和解した場合というのは、どのくらいの明渡期限に設定するのがよいのでしょうか?」
「それは里見さんのお考え次第ですが、それほど長くは設定できないですよね」
「なるほど、分かりました。私としては、北条をこのままの状態にしておくのは、全くの無駄ですので、なるべく早めに手続を進めていきたいと思っています。」