※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


里見豊さんの建物明渡し〜その2

半蔵弁護士

「賃借人の北条一郎というのは、何をしている人なのですか?平成14年の賃貸借契約の申込書には『大工』と書いてありますが。」

里見さん

「書いてある通り、もともとは個人で大工をしていたようです。仕事があるたびにどこかの親方と個人契約して、現場で仕事をするという形態だったようですね。しかし、最近は家にいることも多いようですし、仕事はあまりやっていないように思うのですが。」

半蔵弁護士

「家賃の支払いが途切れたりしているのも、仕事に波があるということなのでしょうかね。」

里見さん

「はい、恐らくはそういうことだと思います」

半蔵弁護士

「北条は、いま一人暮らしでしょうか?」

里見さん

「はい、これまでにも特に同居人はいなかったと思います。」

半蔵弁護士

「分かりました。ただ、念のため、私の方で北条の住民票を取り寄せてみましょう。」

半蔵弁護士

「里見さんが北条と最後に会話したのはいつなのですか?」

里見さん

「今年(平成22年)の8月の半ばです。5月分からの家賃が溜まっていましたので、直接、北条に部屋に行って催促しました。本人が部屋にいたので、家賃の催促をすると、『親父さんは待ってくれた。』とか『もう少ししたら支払う』と言って埒があきませんでした。」

半蔵弁護士

「その後は北条とは接触できていないのですか?」

里見さん

「はい、その後も2回くらい直接部屋を訪ねましたが、居留守を使っているのか、出てきませんでした。置手紙をしたり、電話もかけてみましたが、反応がありませんでした。」

半蔵弁護士

「置手紙というのはどんな内容の置手紙をしたのですか?」

里見さん

「家賃が溜まっているので支払ってくれという内容です。」

半蔵弁護士

「里見さんから、北条に対しては、賃貸借契約の解除はしましたか?」

里見さん

「解除ですか?いえ、それはまだしていません。」

半蔵弁護士

「そうですか、契約書によると賃料を1回でも怠ったときは直ちに解除できるとあります。5月分から連続して6か月分も家賃を支払っていないのですから、賃貸借契約の解除をすべきだと思います。」

里見さん

「そうですか、そういったことも含めて、半蔵弁護士さんにお願いしたいのですが。」

ここで、半蔵弁護士は、今後の手続の流れなどについて説明することとしました。まず、半蔵弁護士から北条に宛てて、内容証明郵便で家賃の不払いによる賃貸借契約の解除の意思表示を行い、それでも反応がないときは、裁判所に建物明渡の訴訟を起こすこととしました。訴訟を起こす前に、占有移転の仮処分といって、北条が他の第三者に占有を移転できないようにする手続きもあるのですが、今回は、里見さんともよく話し合って、占有移転の仮処分はかけないということになりました。占有移転の仮処分を掛けておかないと、北条が第三者に転貸などをしてしまった場合に、その転借人に対してまた訴訟をしなければならなくなるなどのリスクが出てくるのですが、里見さんとしては、仮処分にかけるお金まではないということでした。
里見さん

北条は半蔵弁護士さんからの内容証明郵便で部屋を明け渡してくれるでしょうか?

半蔵弁護士

「うーん。それはケースバイケースですね。北条はお金がなさそうだから、退去したくても退去できないということもあるかもしれませんね。」

里見

「訴訟になった場合には、実際に明け渡されるまでにどれくらい時間がかかるのでしょうか?」

半蔵弁護士

「そうですね、訴状を裁判所に提出すると約1か月後に第一回目の口頭弁論が開かれます。ここで、北条がどんな対応をしてくるかによってその後の展開が大きく分かれてきます。」

里見

「どういうことでしょうか?」

半蔵弁護士は次のように説明しました。 北条が第一回目の口頭弁論を欠席したり、出席しても争わなかったりした場合には、訴訟はすぐに終わり、通常は判決ということになります。判決に仮執行宣言といって強制執行が出来るようになっていればすぐに強制執行を申し立てることができます。そうすると、執行官と打ち合わせをして早ければ1週間から2週間くらいで、執行官が現場に行き、明渡の催告を行います。その際に、約1か月後をめどに強制執行の日時を決めて、それまでに明け渡さなければ、実際に強制執行ということになります。但し、強制執行に関する費用(執行官への申立費用や業者への支払い費用など)は里見さんの負担になります。
里見さん

「う〜ん、そうすると、いまからどんなに急いでも、強制執行で明け渡してもらうのには2、3か月くらいはかかりそうですね。北条が争ってきたらどうなるのですか?」

半蔵弁護士

「北条がどんな争い方をするかにもよりますが、『修繕が必要だったのにしてくれなかったので家賃を支払う必要はない』とかいろいろと弁解してくる賃借人もいます。弁解の内容にもよるのですが、争ってきた場合には、すんなりと第一回目で終わりということにはならないでしょうね。それと・・・」

里見さん

「それと?」

半蔵弁護士

「第一回目で北条が争わなかったとしても、北条が明渡の猶予を希望したりした場合には、裁判所が和解を勧めてくることもあります」

里見さん

「えー!和解なんて考えられません。」

半蔵弁護士

「まあまあ、強制」執行だけを目標にするというのが必ずしも得とは言えないこともあります。強制執行になってしまえば、その費用は里見さんで負担しなければなりませんが、仮に和解をして明渡期限を定めて、その期限までに北条が自分の費用で自主的に出て行ってくれれば、里見さんとしては経済的には助かることになりますね。」

里見さん

「裁判や強制執行の費用は北条の負担ではないのですか?」

半蔵弁護士

「法的には北条の負担なのですが、現実的には北条には金がないと思いますので、実際に回収するということは困難なのです。」

里見さん

「和解した場合というのは、どのくらいの明渡期限に設定するのがよいのでしょうか?」

半蔵弁護士

「それは里見さんのお考え次第ですが、それほど長くは設定できないですよね」

里見さん

「なるほど、分かりました。私としては、北条をこのままの状態にしておくのは、全くの無駄ですので、なるべく早めに手続を進めていきたいと思っています。」

半蔵弁護士は、里見さんと契約し、まずは北条に対し、概要、次の通り内容証明郵便を送り、賃貸借契約の解除を行うこととしました。 「北条一郎 殿  当職は、里見豊氏の代理人として貴殿に対し以下の通り通知します。  里見豊氏は、父である前賃貸人から本物件について賃貸人たる地位を譲り受けましたが、貴殿は、平成22年5月1日からの賃料を支払っておりません。  したがって、本書到達日から3日以内に滞納賃料全額を指定口座まで支払ってください。支払がされない場合には、同期限の経過とともに本件賃貸借契約を解除します。  里見豊代理人  半蔵弁護士」

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