有責配偶者からの離婚請求QA

【裁判例】 同居期間約23年間、別居期間が約8年間というケースで別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りない 最高裁判所 平成2年11月8日
【本件の概要】 1 昭和33年5月7日婚姻した夫婦の案件です。夫婦間に子どもはいますが,基準となる原審の口頭弁論終結時において,長男は大学院卒業後フランスに留学中,二男は大学生という状況でした(その 学費等は、本人のアルバイトのほか妻の収入から賄われていました)。 2 夫婦は共同して商売をしていましたが,商売のやり方について、夫と妻との意見が異なることが多く、口論が絶えませんでした。   夫は妻が商売から手を引いて専業主婦となることを望んだため、妻は昭和44年ころから商売への関与を止めました。   夫は、昭和47年ころ、世田谷区所在の建物の建替えを計画していたところ、妻から反対されたため、これを断念しました。そのようなこともあり,夫は昭和56年夏ころ、妻に対して「一人になって暫く考え たい、疲れた。」と言って、妻と同居していた家を出て別居し、当初の2,3か月間は週に2日位は妻方に帰って来ていたが、その後はこれも止め、現在に至っているというものです。 3 夫は、別居の前から妻以外の女性と情交関係があり、別居後には同女性と同棲するようになりましたが,間もなく同女性とは別れました。   しかし,妻及び子らに自己の住所を明かさず、妻との連絡も夫の仕事上の事務所にさせています。 4 夫は、妻に対する生活費として、昭和61年2月ころまでは月額60万円を、その後は35万円を交付していました。 なお,妻は,夫名義の不動産に処分禁止の仮処分をかけるということをしています。   その後、婚姻費用分担の調停が成立し、夫は昭和63年5月からは妻に対して月額20万円を送金しており、妻は、他に内職により月額6万円の収入を得ているという状況でした。 5 夫は、離婚に伴う財産関係の清算として、妻の居住している夫名義の土地建物を処分し、抵当権の被担保債務を弁済した残金を妻と折半するという提案をしていたが、原審の和解においては、処分 代金から税金、手数料等の経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務は夫の取得分の中から弁済するとの譲歩案を示している。   【コメント】 高裁は、夫から妻に対する離婚請求を認めませんでしたが、最高裁は、次のように述べて高裁の判決を破棄しました。 「有責配偶者からの民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかどうかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないことから、右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであるとすることにある(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号一四二三頁参照)。したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。  ところで、前記事実関係によれば、夫と妻との別居期間は約8年ではあるが、夫は、別居後においても妻及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の父親との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、妻に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、妻は、夫との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころに夫名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる妻の意思に任せる意向であるというのである。そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである(当審判例(最高裁昭和六二年(オ)第八三九号平成元年三月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一五六号四一七頁)は事案を異にし、本件に適切でない。)。 」 別居期間等が似たような事案として,平成1年3月28日の判決がありますが,不貞行為後の不貞行為の相手方との関係や別居後の生活費の負担や,離婚に向けた提案などの点で事情が異なっています。 http://www.egidaisuke.com/legal_info/cat03/q6_08.php 【掲載誌】 家庭裁判月報43巻3号72頁        最高裁判所裁判集民事161号203頁        判例タイムズ745号112頁        金融・商事判例908号29頁
【法律相談QA】
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