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親子・親族に関する裁判例
【裁判例】 長男が自分の父の財産につき弟妹の将来の相続分・遺留分の割合を減少させるために,右父と長男の妻,その子夫婦の3名が同時に養子縁組するなどした場合に,当事者間に養子縁組をする意思がないとして縁組無効を認めた事例 東京高等裁判所 昭和57年2月22日
高齢者の問題を扱っていると,養子の問題が出てくることがあります。 高齢者が若いうちから養子をもらっており,養子との間に親愛の情も生まれているような場合には何の問題もありませんが,高齢になった段階で養子縁組した場合,本当に養子縁組する意思があったのかどうかといったことが問題になることがあります。 本件では,長男の妻とその子供夫妻(被相続人にとっては孫と孫の嫁)との養子縁組が問題になりましたが,まったくの第三者(出入りしていたヘルパーなど)や外国人などとの養子縁組が問題となることもあります。 【事案の概要】 1 被相続人は明治26年生れで、昭和51年1月に死亡しています。死亡する約6か月前昭和50年8月に,長男の妻,その子供夫婦の3名と養子縁組をする旨の届出をしています。 この養子縁組について,縁組する意思がなかったものとして,争われたのが本件です。 2 被相続人は昭和49年には満80歳を越える高齢となっており,長男及びその家族と,長男の弟妹及びその家族との間にはかねてから感情的な軋轢ないし対立があり、特に被相続人が高齢になってからは,その財産(大正9年に被相続人が所有した本件土地・建物がその主たるもの)の承継等をめぐって紛争の生じる下地が十分に醸成されていました。 そして、被相続人は昭和49年1月中旬自宅2階の階段でつまづいて骨折・腰部打撲等の傷を負い、臥床するに至りました。 3 そこで、長男及びその家族は,自宅近所の医院に被相続人の治療を依頼するとともに,同医院から昭和49年1月21日現在被相続人には精神異常は認められない旨の診断書の交付を受けるとともに、区役所出張所から被相続人の印鑑証明書の交付を受け,自宅に公証人の出張を求めて、被相続人が死亡した場合には祖先の祭祀を長男に承継させるとともに、被相続人所有の本件土地・建物をすべて長男に遺贈する旨の被相続人嘱託名義の遺言公正証書を作成してもらいました。 なお、右印鑑証明書の交付を受けるための委任状は被相続人が自署していますが,公正証書の作成に当っては被相続人は負傷のため自署することができないとして公証人が代署しています。 4 とその公正証書作成の直後,長男以外の弟妹らが,長男らの反対を押し切り,被相続人を自動車で連れ出し,別の病院において被相続人の診療を受けさせ,そのまま被相続人を被相続人の四女宅に連れて行き療養を続けさせることになりました。 5 そして,長男以外の弟妹らは、被相続人が四女方に滞在中,長男らが被相続人の財産を処分することを懸念して,被相続人の登録印鑑の登録廃止届を提出するとともに、被相続人と同行して長男方に赴き、長男らが保管していた被相続人所有の現金、同人名義の預金通帳、本件土地・建物の登記済証及び右登録廃止にかかる印鑑を四女方に持ち帰りました。 更に長男以外の弟妹らは,被相続人に、「私は今まで遺言書を書いた記憶はないが、もしつくった遺言書があるとすれば、それらの遺言書は全部取消す」という内容の自筆による遺言証書を作成させました。 6 昭和49年末,被相続人が長年住みなれた本件建物内の自宅に帰ることを希望するなどしたため,被相続人は長男方に帰り、その後再び、長男らとともに、本件建物の一部で生活するようになりました。なお、被相続人は、帰る際,先に持ち出した現金の残金、預金通帳等は持ち帰りましたが、本件土地・建物の登記済証、印鑑等は四女方に預けたままにしています。 7 長男側は、前記自筆証書による被相続人の遺言の存在は知らず,被相続人の死亡後長男の弟妹から公正証書による遺言の効力が争われる場合のあることを憂慮し,そのころ聞いた第三者の意見も参酌したうえ,専ら被相続人の遺産に対する長男の弟妹の相続分ないし遺留分の割合を減少させる方便として,長男の妻及びその子供夫妻の3名を被相続人の養子とすることを計画しました。 昭和50年7月下旬、区役所から養子縁組届の用紙を貰い受け、これに所要事項を記入し,被相続人と長男の妻ら3名とがそれぞれ養子縁組をする旨の届出書を作成し、同年8月,これを区長に提出しました(本件縁組等の届出)。 この養子縁組届出書の作成に当っては,その証人欄の記入押印以外の記入押印は,届出人署名押印欄の被相続人の署名押印を含め,すべて右長男ら、特に長男の子がこれを担当して行ないました。 また、被相続人の押印欄の押印には,前記の登録印ではなく、有合せ印を使用しました。 更に、届出書に証人として署名押印した両名は,いずれもその署名押印当時、長男の知人であったというにすぎず、被相続人とは直接の面識がなかつたのみならず、右届出書が区長に提出される前には被相続人と面接したことすらありませんでした。 8 なお、本件縁組等の届出のなされた昭和50年8月当時,被相続人の遺産に対する長男の弟妹の相続分ないし遺留分の割合を減少させるという目的以外には、被相続人と長男の妻らとの間には、法律上の親子関係を形成しなければならない特段の必要性はありませんでした。 【コメント】 裁判所は,次のような事情から判断して,本件養子縁組は,被相続人の意思によってなされたものではないとして無効と判断しました。 ・本件縁組等の届出がなされた当時,長男及びその家族と弟妹及びその家族との間には,かなり激しい感情的な軋轢ないし対立があり,被相続人の財産の承継等をめぐる紛争がすでに現実化していたこと、本件縁組等は、被相続人の長男の妻並びに長男夫妻の子及び同人の妻の3名を同時に被相続人の養子としようとするものであるが,右届出当時,被相続人と右3名との間には,法律上の親子関係を形成しなければならない特段の必要性はなかった。 ・本件届出は,親族間の軋轢ないし対立関係のもと,専ら被相続人の遺産に対する長男が,その弟妹の相続分ないし遺留分の割合を減少させようという、養子制度の本質からみて極めて特異な目的でなされたものであること ・本件届出当時、被相続人は、80歳を超える高齢であり,かつ,しばしば負傷して臥床、入院するなど身体的不調が続いていたばかりでなく、公正証書による遺言すらその成立後短時日のうちに簡単に否認したり取消したりするなど、弁識力、判断力、決断力等の意思能力にかなりの衰弱が見られ、たやすく同居者等の言いなりになるような精神状態にあつたこと ・そのような事情のもとでどうしても本件のような養子縁組をしなければならないというのであれば、後日その効力、特に養親となるべき被相続人の意思能力の有無をめぐつて紛争の発生するのを防止するために、届出書に被相続人本人の自書を求めるとか、それが不可能なときには、届出書の作成ないし提出の際に、被相続人の意思を確認するに足りる公正な第三者を立会させる等の配慮をするのが通常と考えられるにもかかわらず、本件においてはそのような配慮のなされた形跡は全く存在しないこと ・更にもし本件縁組等の届出が被相続人の真意に基づいてなされたものであるとすれば、少なくとも同人の死亡後、すなわち相続の開始後には、本件縁組等の事実を長男の弟妹にも通知、報告して公表するのが自然であり通常であると解すべきところ,長男は、その後においても、右事実を全く秘匿していたこと 【掲載誌】 家庭裁判月報35巻5号98頁 判例タイムズ469号227頁
【関連QA】
連れ子のある女性と結婚し,私は連れ子と養子縁組をしました。しかし,その後,夫婦関係がうまくゆかなくなり,離婚や養子縁組の解消(離縁)の話し合いを進めています。しかし,離婚には応じてくれるようですが,離縁については「成人になるまで養育費を支払ってほしい」ということで応じてくれそうにありません。子どもは現在6歳です。女性の連れ子であって,養子なのですし,離婚した後も私が養育するというのは納得がゆきません。どのようにしたらよいのでしょうか?
【裁判例】 詐欺による養子縁組の取消権は養親又は養子だけが有することを理由に養親の実子からの縁組取消しの訴えが却下された事例 東京高等裁判所 平成19年7月25日
【裁判例】 縁組を継続し難い重大な事由があるとされた事例 最高裁判所 昭和60年12月20日
【裁判例】 養女の婚姻に反対する養親の態度等から民法814条1項3号の「縁組を継続し難い重大な事由」にあたるとされた事例 東京地方裁判所 昭和54年11月30日
【法律相談QA】
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法律相談の料金はいくらですか?
費用が幾らくらいかかるのか不安です
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