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離婚に伴う財産分与・慰謝料に関するQA
【裁判例】 不貞行為をした妻の夫に対する財産分与の合意,慰謝料の支払約束は,その自由意思に基づいたものではないから,無効であるとされた事例 仙台地方裁判所 平成21年2月26日
いったん合意をしてしまい,書面まで作成してしまうと,「もうどうにもならない」と諦めがちです。しかし,合意は,当事者の対等な立場で真意に基づいてなされる必要があり,特に,夫婦間の感情的なもつれ合いがある中で合意してしまったという場合には,合意の有効性について改めて検討してみることも必要になります。 【事案の概要】 1 本件夫婦は平成6年に婚姻し,子どもも授かりました。なお,夫は外国人です。妻の両親は結婚に反対したようです。 2 裁判所の認定によると,夫は,次のような問題行動を繰り返しました。DVであると言えると思います。 ・夫は仙台市内でアクセサリーショップを経営していたが,女性スタッフが突然辞めたいと言い出したため,妻がその理由を尋ねたところ,夫からわいせつ行為をされた旨を訴えてきたので,妻が,夫に問い質すと,夫はこれを否定し,妻が夫を疑ったことに腹を立て,「私たちに何かあったら,妻には絶対子供は渡さない。」と怒鳴りつけた。 ・妻が長男を出産した後,実家で1か月ほど静養する予定であったが,夫はこれに不満を持ち,妻が帰省して2日目の夜には「子供だけ連れて帰る。」と怒鳴るなどしたため,妻は,やむなく翌日長男を連れて家に戻った。夫は, ・長男が夜泣きをすると「うるさい」と妻を怒鳴りつけたので,妻は,長男が夜泣きをするたびに恐怖を感じるようになり,産後の体調不良もなかなか回復しなかった。 ・夫は,体調の芳しくない妻にも仕事をするように命じ,妻が仕事に集中できないでいると,「妻はスタッフと同じだ。頼んだ仕事もできない。」「妻に仕事は任せられない。」などと責め立てた。 ・妻は,夫に責められてばかりいるため,何事においても自信が持てなくなり,情緒不安定となり,スプレー缶で両足を叩き付けるといった自傷行為を行ない,見た夫は,妻の母を呼びつけ,「見ろ,この馬鹿な娘を。何をやっているんだ。こんな女母親じゃない。仕事もできない無能な女だ。私は子供を連れてイスラエルに帰る。」と妻の母を怒鳴りつけた。 ・夫が頻繁に高級車を乗り換えるため,妻は,夫に対し,余りお金がないことを伝えたが,夫は,妻が子供たちの前でお金がないと言ったことに激怒し,それまで,妻が管理していた預金通帳などを自分で管理するようになった。 3 そして,新店舗の件で,夫は,飲食関係の仕事をしている友人Mにも出店について相談したところ,夫は,友人Mに夫婦仲のことも相談したらしく,この友人Mから妻に夫婦仲を心配する電話がかかってくるようになります。 妻は,夫が夫婦仲について話していたことに気を許し,友人Mに悩みを相談するようになり,妻はMと交際するようになってしまいます。 4 しかし,結局このMとの交際が夫に発覚し,夫が妻に対し暴力をふるったことから,夫は逮捕勾留されてしまうのですが,この勾留期間中に,妻は,夫のショップが入っていたテナントの社長が親身になって話を聞いてくれたことから,同人と性関係を持ってしまいます。 5 結局,夫は罰金刑で出てくるのですが,感情の起伏が激しくなり,妻に対して優しく接することもある一方,妻 に対する不信感が増幅されると,妻を一方的に問いつめ,暴力を振るうという行動を繰り返すようになりました。 6 そして,妻が,上記テナントの社長と関係を持ったことが発覚してしまいます。 夫は,怒り狂い,妻の頭と顔を殴りつけた後,駐車場の裏の茂みに妻を連れて行って妻の臀部と太ももを何度も蹴りつます。 その後,夫は,子供たちの親権者を夫とする離婚届を提出しました。 7 離婚後,夫は妻に財産分与合意書という書面を書かせるのですが,その際も,夫は,妻に対し,不貞について執拗に事細かく問いつめ,妻の髪をむしり,頭部を殴り,突き飛ばすという暴力を振るった後,紙とペンを妻に渡し,「今から私の言うとおりに書け。」と命じ,妻が,夫の言うとおりに書かなかったところ,夫は,「言ったとおりに書けと言っただろう。」と妻を怒鳴りつけ,書いたものを破り散らしたりしたため,妻は恐怖で抵抗することもできず,夫の言うままに書き入れて書面にしたというものです。 8 その後も色々な経緯があるのですが,妻は,夫に言われて慰謝料支払合意書という書面も書かされます。 その際は,夫は妻に対し,「ここに座れ。今から,私の言うことを,自分の気持ちとして書け。」と命じ,2000万円を10日以内に支払うという内容の念書を作成することを求め,妻は,夫から暴力を振る われ,その作成を拒絶するとまた暴力を振るわれ,殺されるのではないかという恐怖心から,やむなく夫の言うとおりに書面を作成し,署名押印したというものです。 9 その後,妻は行政などに相談し,夫と別れたのですが,書面を楯にとって,夫が訴訟提起してきたのが本件裁判ということになります。 【コメント】 妻に対する壮絶なDV,マインドコントロールの事案であり,裁判所は以下のように述べて,妻が署名した財産分与と慰謝料の支払合意書について,その効果を認めませんでした。 「本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書は,いずれも,原告が,被告の不貞行為を責める態度に終始し,被告に対する暴力を繰り返し,被告を自己のコントロール下に置いた上で,被告をして原告の指図どおりの内容で本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書を作成させたものであって,被告の自由意思に基づいて作成された文書ではないと認めるのが相当である。したがって,本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書に表示された被告の意思表示は,意思表示としての効力を有さず,いずれも無効というべきである。」 【掲載誌】 判例タイムズ1312号288頁
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