無罪判決の紹介

【裁判例】朝の通勤通学電車内における女子中学生に対する痴漢行為について無罪とした事例 横浜地方裁判所 平成24年10月19日
1 事案の概要 朝の通勤通学の電車内で女子中学生が痴漢に遭ったということで,被告人が逮捕されましたが,被害者が自ら痴漢の被害を訴えるなどして,その犯人を指摘するなどして事件となったケースではなく,痴漢摘発の職務に当たっていた警察官が,被告人の不審な行動から,被告人をマークしていたところ,被告人が痴漢行為に及んだとして被告人を逮捕したケースであり,痴漢行為を現認したとする警察官の供述が,本件での重要かつ直接的証拠である点に特徴があるというものです。 被害者とされる女子中学生は,検察官調書の作成までは協力しましたが,公判廷での証言については両親の反対があり出廷せず,検察官調書の取調も却下となりました。 当日,警察官が,痴漢行為の取締りの職務に従事していたところ,ホームに止まっていた電車の車内の様子をうかがうだけで乗車しない被告人を認め,痴漢常習者がよくやる行動と不審に思って見ていると,被告人は階段の下から本件ホームに上がってくる女性を見るなどしていたとして,痴漢をやるに違いないと思い,動力の警察官にも連絡しし被告人のマークに入りました。 そして,車内で被告人が痴漢行為をしているのを現認したとして,被告人を逮捕するとともに,女子中学生に対し被害を確認したところ,被害にあった旨を述べたということです。 2 裁判所の判断 裁判所は,警察官が痴漢行為の取り締まりに当たっており意識的に注意して被告人を観察していたことからすると,被告人が,本件電車に乗り込むまでの間,実際に痴漢の相手を物色していたかは別として,少なくとも,警察官から見て,電車内で痴漢行為に及ぶ可能性があるのではないかと思わせるような不審な行動をとっていたことは,認定することができるとしています。 しかし,次のような点から,警察官の供述の信用性を否定しました。 (1)警察官が述べる被告人の姿勢の不自然性 被告人が膝をくの字に曲げ,上半身をそらせながら右腕を後方に伸ばして座席の上のつり革をつかみ,下半身を被害者の臀部の辺りに突き出していたという被告人の姿勢は,朝の混雑した電車内での痴漢行為としては,かなり異様であって不自然さを否めない。 まるで他の乗客に自分は痴漢をしているとでも示しているかのような様相であり,少なくとも痴漢の犯人がわざわざこのような姿勢をとるというのは常識的に考えがたい。 夜の混雑した電車内であれば,酒に酔った勢いなどこのような行為に出ることも考えられるが,本件はそのような場面ではない。 しかも,この姿勢は,本人にとってもかなり無理な体勢であり,車内での約8分のほとんどの時間,一時姿勢を直したときを除き,ずっと同じ姿勢を続けていたというのも,不自然というほかない。 (2)警察官による供述の誇張の疑い 股間を押しつけるというのは痴漢行為としては見ていて意図的か判断が微妙なケースであることを考えると,現認警察官としては,故意性を引き出そうとする余り,被告人の行為態様を誇張しているのではないかとの疑いすら出てくる。 警察官が全く根も葉もないのに事実をねつ造して虚偽の現認供述をすることまではしないと思われるが,痴漢摘発の意識が過剰となり,せっかくマークした人物であるだけに,一見して疑わしき行動があればそれだけでクロと判断しがちになることも考えられなくはない。 被告人がいったん被害者から股間を離したとき,被告人のスーツのチャックの部分が盛り上がっているのが確認できたという警察官の供述も,いかにもリアルな感じはするものの,かえって誇張ではないか(仮にそのような場面を見たにしても,思い過ごしではないか。)との疑いをぬぐいきれない。 (3)供述のすり合わせの疑い 2人の警察官の供述が相互に符合しているといっても,両警察官とも一緒に痴漢の摘発に当たっていた者で,いわば同じ立場にあり,この点はさほど重視できるものではない(供述のすり合わせを疑うことも可能である。)。 (4)裏付け証拠がないこと 被害者は,痴漢にあったことを認めたというのであり,後に被害届を提出していることも認められるが,果たしてこれが被害者の真意によるものであるか,被害者の供述がない以上,確認しようがない。 本件の捜査では,他の目撃者(乗客)の確保もされておらず,被告人の着衣に被害者の着衣の繊維が付着していたか否かについての捜査も全くしていない。 この捜査の在り方について,警察官は,自分たち二人で現認しているので,目撃者の確保までは必要ではなく,それで十分であった,被告人は本件電車に乗り込むときに被害者を押しながら入っていったので,その時点でも被告人の着衣に被害者の着衣の繊維が付着してしまい,どちらで付着したか判別できないと思い,繊維の捜査をしなかったなどと供述しているが,余り納得のいくような説明ではない。 なお,被告人が本件電車に乗り込むまでの間,警察官から痴漢行為をするのではないかと思われるような不審な行動をしていたとしても,それをもって被告人が両警察官が述べるような痴漢行為をしたことの裏づけになるものでないことはいうまでもない。
【法律相談QA】
法律相談の時間の目安はどのくらいですか? メールで相談することはできますか? 法律相談の料金はいくらですか? 費用が幾らくらいかかるのか不安です


タイトル
メールアドレス
お名前 (全角)
お問い合わせ内容
個人情報規約 個人情報規約はこちら
(注)このフォームは簡易お問い合せフォームです。一般的,簡単なご相談であればメールでご回答差し上げます(無料)。 相談フォームもご利用ください。