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【裁判例】 強制わいせつ事件について,被告人が犯人であるとする少女の供述等の信用性を肯定した控訴審の有罪判決が破棄され第一審の無罪判決が維持された事例−板橋団地内強制わいせつ事件 最高裁判所平成1年10月26日
1 事件の概要は,午後6時ころ、東京都板橋区内のマンション前の通路で,帰宅途中の9歳の少女Aが,男に,階段踊り場に連れ込まれて,着衣の上から右手で陰部を触られたり,その後も同日午後6時30分ころまでの間に亘って,パンティを下げて陰部を舌でなめられるなどしたという事件でした。 2 起訴された被告人について,一審は無罪としたものの,控訴審では逆転有罪となりました(懲役1年2月の実刑)。 しかし,最高裁判所は,有罪判決を破棄し,被告人を無罪としました。 3 犯人識別供述 本件では,被害者である少女Aの犯人の容貌や特徴などについての供述(犯人識別供述といいます)の信用性が問題となりました。 控訴審は,犯人を被告人であるとする少女Aの犯人識別供述の信用性を認めましたが,最高裁は,次のように述べて,その信用性に疑問を呈しました。 まず,一般論として,次のように述べて,犯人識別供述については慎重に検討すべきであると述べています。人物についての容貌や特徴についての人の記憶は,一瞬のものであったり,記憶が混同したり錯綜したりして 間違いやすいという特徴があるからです。 「人物の同一性識別供述については、成人についてもその正確性が問題とされる場合が少なくないところ、特に少女Aのような小学4年生程度の年少者の場合は被暗示性が強いから,少女Aの供述の信用性についても、慎重に吟味する必要がある」 4 少女Aの居術の信用性 (1) 本件で,少女Aは,犯人を,「一見外人(白色人種)風の容貌でありながら日本語を流暢に話す若い男」としていました。そして,被告人は、アメリカ人の父と日本人の母との間に出生し、以来日本国内で育ち,本件マンションに祖父や母親と共に居住していました。 控訴審は,犯人が少女Aにとって既知の人物であったことや約30分間にもわたって犯人と行動を共にしWEW犯人を注視していたこと,被告人が純粋な白人とも異なる特徴的な容貌の持ち主であること,少女Aには過去に白人系の外国人と交際した経験もあること,少女Aが被害から3日後の板橋警察署における面通しの際に躊躇なく被告人を犯人と指摘したことなどを根拠として,少女Aの「犯人を被告人であるという」供述を信用できるとしました。 しかし,最高裁は,少女Aの供述によれば,少女Aは被告人を以前に2,3回見掛けたことがあるという程度であり、言葉を交わしたこともなかったこと,少女Aによる面通しについては,担任教師及び少女Aの母に本件被害の事実が伝えられ、Bの申立があって、警察も被告人を容疑者として任意同行し、その後右面通しが行われるに至ったという経過をたどっており,このように,面通しまでに、かなり多くの人々が被告人を犯人として特定することに関与しており、少女Aもそのことを知ったうえで面通しに臨んだこと,暗示性が強いためできる限り避けるべきであるとされているいわゆる単独面通しの方法がとられていることなどから,少女Aが面通しにおいて被告人を犯人と指摘するに当たり、暗示を受けていた可能性を否定することができない。 なお,Bというのは,マンションの管理人のことなのですが,Bは,犯行が行われていた時に,犯人と少女Aが一緒にいるのを見て,犯人と言葉を交わしているのですが,犯行に気付かずにその場を立ち去っていました。そして,少女Aは,犯行から数日後に友達に本件のことを話したところ,担任や母親に話が伝わり,さらに母親がBに「外国人風の男がマンションに住んでいないか」と尋ねたところ,Bが被告人のことを話し,通報を受けた警察に対してもBは「犯人は被告人だと思う」と話していたという経緯がありました。 単独面通しというのは,複数の人間の中から犯人を選ばせるのではなく,一人の人間が犯人かどうかを尋ねるという方法のことをいいます。 (2) 控訴審でも,少女Aの供述が同級生との会話により犯人についての暗示を受けた結果によるものではないかとの点がもんだとなっていましたが,控訴審は,少女Aは,「犯人は初めて見る人物ではなく 、以前に本件マンション一階のスーパーマーケット内やA号棟の前あたりで2,3回見掛けたことのある人物であり、被害当時既にそのことに気付いていた」(第一審証言),「被害当時から犯人が本件マン ションの住人ではないかと思っていた」(控訴審証言)ことから,少女Aは,はじめから犯人が被告人であると分かっていたはずだと判断しました。 しかし、最高裁は次のように述べて,そのような判断に疑問を呈しています。 「少女Aは、控訴審においては,第一審においては,被害当時犯人が本件マンションの住人であるかどうかは分からず,友人のCとの会話により本件マンションの住人であると思ったと供述していたのである。しかも、少女Aは学校で友人のCやDと話をした際,本件マンションに住むCから,日本語が堪能な外人にマンションのエレベーターの中までついて来られたことがあり、そのときその外人はエレベーターの5階のボタンを押していた旨聞いたと第一審及び控訴審において供述し,Dからは,本件マンション近くの歩道橋の上で男から英語を教えてあげようかといって肩を掴まれた旨聞いたと控訴審において供述している。そうすると、少女Aは、被害当時は本件の犯人が本件マンションの住人であるかどうかは分からなかったのに、Cらとの会話を通じて、本件の犯人はCやDの話す男と同一の人物で、本件マンション5階の住人であると思い込み、そこから本件マンションに住んでいる被告人を本件の犯人であると特定するようになったのではないかとの疑いを否定することができない。」 (3) また,少女Aは犯人が胸にポパイという英語の入ったTシャツを着ていたと証言し,これを裏付けるかのようなとして本件マンションに住む中学生による「被告人がそのようなTシャツを着ているのを見掛け、流行遅れのものを着ていると感じて印象的であった」とという証言がありました。 しかし,その中学生は,事件後にもそのようなTシャツを着ている人物を見かけたと証言していたり,他に被告人がこのようなTシャツを所持していたことを裏付ける証拠もなく,最高裁は被告人を犯人と 断する根拠をにならないものとしました。 (4)最高裁は,他に,犯人の特徴等を確認する尋問に対する少女Aの供述をみると,例えば、第一審では「背の高さは忘れた、自分の父親より高いかどうかも分からない、目の色、眉毛、髭がどのようなものであったかも分からない」と供述しているのに対し,控訴審では,「目のあたりが窪んでいることと背の高さからみて被告人が本件の犯人であることに間違いない」と供述するなど、第一審よりも控訴審の方が詳細であり、また、被告人をより強く本件の犯人であると断定する内容となっているが,いうまでもなく、犯人識別供述の正確性は、一般的にも、むしろ犯行時により近い時点での供述内容が重要であり、被告人について見聞きした後に至っての詳細、強固となった供述をそのとおり信用することには、問題があるというべきであると指摘しています。 5 管理人Bの供述の信用性 (1) マンションの管理人Bは,犯行時に見かけて話をした犯人は被告人であると証言していましたが,最高裁はその信用性について重大な疑問があるとしています。 Bは,犯人が、本件犯行の際通り掛かったBに対し、「ヨシカワさんという人の家を知りませんか。英語を教えに来たんですけど。」などと尋ね、Bが、「そういう人はいない。ここは英語をやるところじゃない。無断でそのようなことをすると館内放送をする。」などと答えたと供述していました。 このやり取りからすると,Bは,犯人のことを明らかに外部の者であると考えていたのではないかとということが問題になりましたが,控訴審は,Bは,その日開催予定だった本件マンションの自治会役員会の準備に追われており、少女Aと一緒にいた犯人から、英語教授うんぬんの話を聞いて,とっさにその男を本件マンション外部の者と早合点して、前記のような対応をしたが,その後本件犯行のことを聞くに及んで犯人が被告人であったということに気付くに至ったものであるのだと述べていました。 しかし,最高裁は,そのような経過による記憶の喚起ということ自体が不自然であり,また,Bは、捜査段階から第一、二審公判を通じて従前から被告人の顔をよく知っており、本件当日Aと一緒にいた男と前記のような会話をした時点で既にその相手が被告人であると気付いていた旨を一貫して供述しており,一度も控訴審が述べたようなのような経過で記憶を喚起したとは供述しておらず,その供述について重大な疑問があるとしました。 (2) Bが,犯人のことを外部の者だと勘違いすることがあるのだろうかという点に関し,控訴審は,Bは,被告人が本件マンションに入居する以前に2回ほどB方に同人の子供を訪ねて来たことがあり,本件犯行当時、被告人の顔を知っていたと認められるものの,Bがいかに本件マンションの管理人であるとはいえ、被告人の顔を他の多数のマンションの住人の顔からとっさの間に逐一識別して、思い出せるほど熟知していたものとは到底考えられないから,後になって,犯人が被告人であると思い出したとしても、あながち不自然であるとはいえないとしました。 しかし、最高裁は,Bの居室と被告人のそれとが同じ棟で近接していることや、被告人が純粋の白人とも異なる特徴的な容貌の持ち主であることなどに照らし,Bが被告人の顔を他の者と識別できるほどに熟知していなかったとの控訴審の判断に疑問を呈しました。また、仮に、Bの被告人に対する面識が控訴審が指摘する程度のものに過ぎなかったとすれば、Bは犯人との会話をその後特に気にも留めていなかったというのであるから,3日後に犯人の顔などを思い浮かベて,それが被告人であったと確信を持って断定できるなどということは、これまた不自然というほかはなく、容易に首肯できることではないとも述べています。 (3) Bは,少女Aの母親や聞き込みに来た警察官に対して,本件犯行のあったときに被告人が少女Aと一緒にいたのを目撃した事実を告げていませんでした。 この点について,控訴審は,母親や警察官との際の会話の主題が、本件犯行による被害の有無とか、そのときBが本件犯行の際に少女Aや被告人を見掛けたことの有無などではなく,問題となっている人物が本件マンションの住人であるかどうかであったことだったことから,その際に目撃の事実を話さなかったからといって,Bが目撃した際の会話の相手が被告人であったことに十分な確信を持っていなかったものと断ずることはできないとしました。 しかし,最高裁は,Bは,母親や警察官とと話をした際,少女Aがいつどこでどのような犯人にいたずらされたと言っているのかは聞かされており,犯人を特定することがこの時点での最も重要な課題であったことは明らかであったこと,そうすると,Bが犯行当時の会話の相手が被告人であったことに十分な確信を持っていたのであれば、犯行の現場に出会わせた当人として,その目撃の事実に言及するのが自然であり、言及しなかったというのは納得できないとしました。 また,Bは,本件犯行を警察に通報した直後,被告人方に電話を掛け、電話に出た被告人の祖父に被告人が英語を話すかどうかを確認していました。 控訴審は,この点について,Bは既に被告人を犯人として派出所に通報していた手前もあり,念のため,果たして被告人が英語を話すかどうかを確認しておこうとの考えに出たものであって,Bがそのことに確信を持っていなかったことにはならないとしました。 しかし,最高裁は,Bは,この被告人方への電話をする以前には,誰に対しても自分が犯行時に少女Aと被告人が一緒にいるのを見掛けたとは告げていないのであるから,わざわざこのような電話をしたという事実は、むしろ、Bが、その時点においても,会話の相手が被告人であったかどうかについて、必ずしも十分な確信を持っていなかったことを窺わせるものと考える方が自然であるとしました。 6 被告人の自白の信用性 被告人は,捜査段階で自白していましたが(公判で否認に転じた),最高裁は,自白の内容と少女AやBの供述の間には合理野的に説明できない次のような矛盾があり自白は信用できないと判断しました。 @犯行時の犯人の服装に関し,少女Aは「上半身が「ポパイ」というような英語の文字が書かれた暗い色のTシャツ、下半身がグリーンがちょっと灰色っぼくなった色の長ズボンであった」と供述しているのに対し,自白調書では「上半身が白色半袖ポロシャツ、下半身が紺色ズボンとなっている(Bは何も覚えていない旨供述している。)」とあり異なっていること。 A犯行時の犯人の所持品に関し,少女Aは「濡れていない黒の折り畳み傘、東京23区の地図、英単語とそれに対応する絵が書かれたカード数枚」と供述しているが(控訴審供述では、これらに黒のポーチも加わっている。)、自白調書では「友人のに届けるために作ったおにぎり2個を入れた西武百貨店の紙袋を持っていた」とあるだけで、少女Aの供述にある物品については何らの記載もなかったこと。 また,少女Aは自白にあるような紙袋は見ていないと供述している(Bは右の所持品の点についても何も覚えていない旨供述している。)。 B犯人が少女Aに接近した際の言葉などに関し,少女Aは「犯人に後ろからまず右肩を、次に右腕を掴まれ、「このマンションで、ヨシカワさんという人はいませんか。ヨシカワさんという人に英語を教えにきたんですけど。」などと言われ、「知りません。」と答えたと」供述しているが、自白調書では、僅かに、少女Aには肩を右手でたたきながら「今日は。」と声を掛けたとなっているのみであること。 C階段踊り場での犯人とBとの会話などに関し、少女A及びBは、Bが少女Aに「Aちゃん。」と呼びかけたところ、犯人はBに「ヨシカワさんという人の家を知りませんか。英語を教えに来たんですけど。」などと尋ねたのに対し、Bが「そういう人はいない。ここは英語をやるところじゃない。無断でそのようなことをすると館内放送をする。」などと答えたと供述しているが、自白調書には、僅かに「二階エレベーターの方から来た管理人さんに何か声を掛けられました。私は一瞬ビックリしましたが、『今日は。』と言ってその場をごまかしました。」と記載されているのみであること。 以上のような事情から,最高裁は,少女A,管理人Bも被告人の自白調書のすべての信用性を否定して,被告人を無罪としました。 【掲載誌】 最高裁判所裁判集刑事253号167頁 判例タイムズ713号75頁 判例時報1331号145頁
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