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相続の承認・放棄に関するQA
【裁判例】 民法915条1項所定の熟慮期間について、相続人が相続財産の全部若しくは1部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとされる場合最高裁判所 昭和57年4月27日
最高裁判所が,相続の熟慮期間の起算点について判断した先例的な判例です。なお,反対意見もついています。 【事案の概要】 1 被相続人が死亡したのが昭和55年3月5日で,相続人が相続放棄の申述をしたのが昭和56年2月26日でした(家庭裁判所は申述を受理しました。)。 2 被相続人は定職につかずにギャンブルなどに熱中したため,昭和41年,42年には妻子は家出するなどして,交渉が全く途絶えていました。被相続人は生活保護により生活していました。 そして,昭和52年に,被相続人は,1000万円のの債務について連帯保証契約を締結しましたが,支払がされなかったため,訴訟となり,昭和55年2月22日に被相続人に対し支払いを命じる判決が下されますが,その僅かの後である3月5日に被相続人は死亡します。 被相続人の死亡に当たっては,相続人の一人が死に立ち会い,また,その他の相続人も同日あるいはその翌日にその死亡を知らされました。 相続人の一人は、民生委員から被相続人の入院を知らされて,三回ほど被相続人を見舞っていますが,その際,その資産や負債について説明を受けたことがなく,訴訟が係属していることも知らされませんでした。被相続人には相続すべき積極財産が全くなく,葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられるという状態でした。 3 一審の被相続人敗訴の判決が相続人らに送達されたことから,その事実が発覚し,相続人らは、第一審判決に対して控訴の申立をする一方,家庭裁判所に相続放棄の申述をしたという経緯です。 【コメント】 最高裁判所は,原則としては,あくまでも「相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知ったた場合」が熟慮期間の起算点であるとしています。 しかし,一方で 「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」として,相続放棄の申述を有効とした原審を支持しました。 なお,原審は,自己のために相続の開始があつたことを知つたというためには,「相続すべき積極又は消極財産の全部あるいは一部の存在を認識することを要する」と踏み込んで判断しましたが,これについては誤っていると指摘しています。 原審と最高裁の言い回しは似たようなものなのですが,原審の立場では,相続人が積極的に相続財産(プラス又はマイナスのもの)の存在を認識するまでは熟慮期間が起算されないのに対し,最高裁の立場では,相続財産が「全く」存在しないと信じたこと及びそれに相当な理由があることが必要ですので,認識の対象などか異なっていることになります。 なお,最高裁の反対意見は,相続人に全く相続財産(債務も含めて)がないということは通常考えられないのだから,相続発生と共に相続放棄等の手続きを取るべきであるとしています。 【掲載誌】 最高裁判所民事判例集38巻6号698頁 家庭裁判月報36巻10号82頁 最高裁判所裁判集民事141号653頁 裁判所時報892号3頁 判例タイムズ528号81頁 金融・商事判例697号3頁 判例時報1116号29頁
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