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【裁判例】 民法892条の「著しい非行」に該当するものとして,推定相続人の廃除が認められた事例 神戸家庭裁判所伊丹支部 平成20年10月17日
被相続人である父親が,遊興を続けるなどした長男Aについて,遺言により相続人の廃除の意思表示を行い,指定された遺言執行者である弁護士が,家庭裁判所に対して長男Aの相続人の廃除を申立認められた事例です。 【事案の概要】 1 被相続人である父親は,長年会社に勤務した実直な性格であり,生涯堅実な生活を送っていました。 被相続人は妻との間に,二人の子どもを設けていましたが,長男Aは,高校卒業後,予備校に通っていたころから遊興に金銭を費やすようになり,進学しないまま就職した後も競馬,パチンコや車の購入,女性との交際費等で借財を重ねるようになっていました。また,交通事故などで借財が増えることもあったようです。 2 このため,被相続人がAの債権者らを回って返済をし,Aの反省を促していたが,Aの浪費や借財は収まりませんでした。 Aは,いわゆるヤミ金からも再三借金を重ね,取立関係者が返済を求めて被相続人の自宅に電話をかけてきたり,見張ったりしただけでなく,実際にも押しかけたり,近所にも聞こえるような大声で罵倒し,被相続人が警察を呼ぶような事態も生じました。 3 平成2年ころから平成14年ころまで,被相続人がAのために,債権者らに立て替えて支払った額は,2千数百万円に上っており,そのうち一部は返済されたものの,2000万円以上の残金が被相続人に対して返済されませんでした。 4 被相続人は,Aのための弁済を自分のお金だけでは賄いきれず,もう一人の子どもから合計600万円を借り受けたが,平成20年に死亡するまでに,返済することはできませんでした。 5 Aは,高校卒業後,少なくとも,平成9年後半ころから平成14年ころまでの間,被相続人の自宅不動産である自宅不動産に被相続人や母親と同居師弟借金ましたが,返済が度重なったほか,Aが被相続人に対し,被相続人の自宅不動産の権利証の交付を要求したこともあり,平成14年4月ころに,被相続人から「勘当」と言われ,被相続人の自宅から追い出された上,自宅や妻に近づくこと を禁止されていました。 6 被相続人は遺言でAの相続の廃除の意思を示すとともに,葬儀にはAは呼ばないように求めていました。 7 Aは,相続人の廃除申立ての前後に,母親に対し無心を続け,「今度,裁判所に行くことになった。姉は卑怯だ,廃除に腹が立つ」「もう,やくざになって仕返しして,どうなってもいいんだな,結婚できなかったらお前らのせいだから」「蒸発する」などと述べて,相手方を心配する母親からさらに金を引き出したりしました。 【コメント】 家庭裁判所は次のように述べて、父母の娘に対する相続人廃除の申立てを認めました。 「Aの行為は,Aが成人に達するころから約20年間,被相続人を経済的,精神的に苦しめてきたものといわざるを得ず,被相続人の苦痛は被相続人の死亡まで続いており,被相続人が心情を吐露したとみられる本件手紙及び本件遺言書の各内容,並びにいわゆる「勘当」の存在及び葬式ヘのA出席に関するAの姉への指示などは,被相続人の怒りが相当激しいものであったことを示しているところ,Aの行為による被相続人への経済的,精神的な苦痛の大きさやその継続に鑑みれば,被相続人の怒りも十分理解できるものであって,結局,Aの行為は,客観的かつ社会通念に照らし,Aと被相続人の相続的協同関係を破壊し,Aの遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものであり,民法892条の「著しい非行」に該当するといわざるを得ない。」 【掲載誌】 家庭裁判月報61巻4号108頁
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