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【裁判例】 推定相続人である娘が暴力団員と婚姻し、父母が婚姻に反対なのにその父の名で披露宴の招待状を出すなどした行為と相続人の廃除の可否 東京高等裁判所 平成4年12月11日
裁判所が認定した事実は次のとおりですが、原審の東京家庭裁判所は、父母からの相続人廃除の申立てを却下しました。相手方というのが推定相続人である娘、抗告人というのが父母のことです。 1 相手方は、昭和62年2月17日中等少年院を仮退院し、抗告人らのもとに帰ったものの、約1週間後には少年鑑別所で知り合った友人方に身を寄せ、抗告人らは、かつて相手方の捜索等に協力し てくれた警察官の援助を得て、その所在を確認し、右友人方の生活環境を調べ、右警察官の助言をいれて事態を静観することとした。 相手方は、右友人方で生活し、その夫の経営するスナックに勤めたが、その後、友人方を出て、暴力団員の甲田一郎、次いでタクシーの運転手と同居を始め、昭和63年6月ころから、キャバレー「チェ リー」に勤めるようになり、乙田次郎とも顔見知りとなった。同人は、当時、暴力団丁原会戊田組の組員・中堅幹部であり、暴力行為等処罰に関する法律違反により懲役刑(1年、執行猶予4年間)に 処せられたことがあるほか、傷害罪により罰金刑に処せられた前科があった。 2 相手方は、平成元年始めころから乙田と親密に交際するようになり、同年9月には東京都台東区戊川にある同人方で同居を始め、同年12月22日に婚姻の届出をし、翌年1月には同区三ノ輪のA 田荘に転居した。 抗告人である母は相手方と電話で話合うこともあったが、相手方は、同抗告人の意見を聞き入れたり、抗告人らのもとに戻る意向を示すことはなく、乙田と同居中に家賃が払えないといって、抗告人で ある母から25万円の援助を受けたこともあった。 相手方は乙田を伴って、抗告人らの家に赴いたことがあったが、抗告人である母が同人と会うことを拒み、結局、同人も抗告人らとの接触を求めず、同人と抗告人らとは顔を合わせることもなかった。 3 抗告人らと相手方との交流は、相手方が前示中等少年院からの仮退院後家出をして以来は、平成2年11月1日、乙田から暴行を受けて短時間抗告人らの許に戻ったことがあったこと、右より前に抗 告人である母が相手方と電話で話したことがあったことがあるほかは没交渉な状況が続いている。 4 相手方と乙田との夫婦関係は、同人が暴力を振るうこともあって、必ずしも円満とはいいがたいが、両名は、平成2年11月ころから乙田の郷里である茨城県B市で生活し、その後乙田がトラック運転手 として働き始め、相手方が平成3年2月と7月と2回家出をすることがあったものの短期間で家庭に戻り、平成4年5月2日には結婚披露宴を行うに至った。 そして、相手方と右乙田とは右披露宴をするに当たっては、抗告人らが右婚姻に反対であることを十分に知りながら、披露宴の招待状に招待者として乙田の父乙田三郎と連名で抗告人である父の名 も印刷して抗告人らの知人等にも送付した。 東京高裁は次のように述べて、父母の娘に対する相続人廃除の申立てを認めました。 「ところで、民法第八九二条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである。 本件において、前記認定の事実によれば、相手方は、小学校の低学年のころから問題行動を起こすようになり、中学校及び高校学校に在学中を通じて、家出、怠学、犯罪性のある者等との交友等の虞犯事件を繰り返して起こし、少年院送致を含む数多くの保護処分を受け、更には自らの行動について責任をもつべき満18歳に達した後においても、スナックやキャバレーに勤務したり、暴力団員の丙田五郎と同棲し、次いで前科のある暴力団の中堅幹部である乙田次郎と同棲し、その挙げ句、同人との婚姻の届出をし、その披露宴をするに当たっては、抗告人らが右婚姻に反対であることを知悉していながら、披露宴の招待状に招待者として乙田の父乙田三郎と連名で抗告人である父の名を印刷して抗告人らの知人等にも送付するに至るという行動に出たものである。 そして、このような相手方の小・中・高等学校在学中の一連の行動について、抗告人らは親として最善の努力をしたが、その効果はなく、結局、相手方は、抗告人ら家族と価値観を共有するに至らなかった点はさておいても、右家族に対する帰属感を持つどころか、反社会的集団への帰属感を強め、かかる集団である暴力団の一員であった者と婚姻するに至り、しかもそのことを抗告人らの知人にも知れ渡るような方法で公表したものであって、相手方のこれら一連の行為により、抗告人らが多大な精神的苦痛を受け、また、その名誉が毀損され、その結果抗告人らと相手方との家族的協同生活関係が全く破壊されるに至り、今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえる。そして、相手方に改心の意思が、抗告人らに宥恕の意思があることを推認させる事実関係もないから、抗告人らの本件廃除の申立は理由があるものというべきである。」 【掲載誌】 判例時報1448号130頁
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