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相続人に関するQA
【裁判例】 遺言を偽造したとして相続欠格が主張された事例 東京地方裁判所 平成9年2月26日
本件は母親の相続財産を巡る三人姉妹の相続争いであり、長女と三女が遺言書は二女の偽造によるものであるとして、遺言無効の確認を求めるとともに、二女の相続権の剥奪を求めた事案です。 相続欠格者とされたB子について、特に裁判所の筆跡鑑定はされていませんが、B子の行動の不自然さなどから、本件遺言をB子が偽造したものとして、相続欠格者であると判断しています。 【本件の概要】 1 被相続人は,明治39年生の方で,平成1年に亡くなりました(84歳)。 相続人として、A子が長女、B子が二女、C子が三女という関係です。二女のB子が本件で遺言を偽造したとして指弾されました。 2 もともと被相続人は、夫の死後,A子一家と同居していましたが、その後A子一家が転居した後は一人暮しをしていました。 被相続人は昭和61年ころから,「隣人にピストルで狙われている」などと妄言を吐いては一日に何度も110番通報したり、蕎麦屋に大量の出前を注文したりするなどの騒ぎを起こすなどの痴ほう症状が現れ始めます。 そのため,精神病院に入院することになり,その際に,A子が精神保健福祉法上の保護者に選任されています。 4 その後,被相続人は、しばらくB子宅にいたり,自宅での生活や入院を繰り返したようです。 5 被相続人の死亡後、B子はA子らに対し、被相続人の書いた遺言書があると述べ、同人の相続財産の処理については自分が全部任されているなどと発言していましたが、49日の法要を過ぎても右遺 言書をA子らに示しませんでした。 そのため、A子らは弁護士を通じてB子に遺言書の提出を催促したところ、B子は家庭裁判所に対して被相続人作成に係るものという遺言書(以下「第一遺言書」という)の検認を申し立て、裁判所において右検認手続がされました。 その第一遺言書には「B子に一任します」とのみ記載され、作成日は昭和63年12月22日とされていました。 6 本件第一遺言書につき、A子らは裁判所にB子を相手として遺言無効確認の訴えを提起しますが,この事件の審理中、B子は突然,この遺言書とは別の新たな遺言書(以下「第二遺言書」という) が発見されたと言い始め、家庭裁判所に右遺言書の検認を申し立てて検認手続がされました。 なお、この第二遺言書には、「財産は全部B子へ」と記載され、作成日は平成1年3月22日と記載されていました。 7 このため、A子らとB子は本件第一遺言書が無効であることを確認する旨の和解を成立させて前訴を終了させます。 その上で,A子らは改めて新たに発見されたという第二遺言書に関して、これが無効であること及びB子が被相続人の相続財産について相続権を有しないことの確認を求めて訴訟提起しました。 これが本件の概要です。 【コメント】 裁判所は,次のような根拠で,新たに発見された第二遺言書が被相続人によって作成されたものではなく,B子によって偽造されたものであると判断しました。 裁判所がどんなファクターで判断したかについてみると,遺言の有効性を争う際の参考になると思います。 1 作成当時の被相続人の病状 第二遺言書が作成されたというとされる平成1年3月22日は、被相続人が癌により死亡するわずか10日前であり,被相続人は昭和61年ころから痴ほう症状が現れており,相盗進行した状態にあったことからすると,第二遺言書に記載されているような力強い字で作成し得る状態ではなかったと推認するのが合理的というべきである,としました。 2 本件第二遺言書発見の経緯等について B子が第二遺言書を発見したのは平成6年でした。 この点,B子は,「生前被相続人から本件第二遺言書の存在をほのめかされてはいたが、同人の死後これを見つけることができず、約5年後の平成6年になってようやく同人の自宅からこれを発見した」と主張したのですが,その発見の経緯は経験則に照らして不自然である,と判断されています。 裁判所は,不自然な点として,次のように言っています。 ・遺言書という文書の性質とその重要性を考えると、被相続人がB子以外の誰にも遺言書を作成したことを告げていなかったという点は不自然である ・被相続人がその生前B子に対し本件第二遺言書を作成したことをほのめかしていたのに、B子にその保管場所を伝えなかったという点も不自然である ・B子も被相続人に右遺言書の保管場所を尋ねなかったという点も不自然であるる。 また、裁判所は,B子の遺産に対する執着的態度からみて,被相続人の死亡後約5年もの間,遺言を被相続人の自宅から見つけられなかったということはおかしいとも言っています。 3 被相続人とA子ら及びB子との信頼関係 B子は、A子らが被相続人の面倒を全くみなかったので、B子一人が被相続人の世話をしていたと言って,被相続人がB子に遺言を残すのは自然だと主張しましたが,裁判所は,A子らも精神衛生法に基づく被相続人の保護者に就任したり,被相続人の見舞いに行ったり、東大病院の医師に被相続人の様子を伺いに行くなどしており,被相続人がB子のみを特別に扱っていたとは言えないとしまし た。 かえって,被相続人が病院を退院後、B子宅でしばらく療養することとなったがその滞在は長くは続か無かったことなどからして,被相続人がB子に対してさほどの信頼を置いていなかったと指摘しています 。 4 遺言というものに対する思い入れ 事柄の性質上、相続財産の処分に関する遺言書の作成に当たっては、その旨の明確な意思表示を現す形式ないし表現が採られるのが通常であるとしたうえで,次のような状況から,被相続人が確定 的な意思で遺言をしたためたとは思われないとしています。 ・第二遺言書は,遺言書とされる文書に は「遺言書」という表題は付されていない ・その内容も「財産は全部B子へ」といった曖昧な文言が記載されているにとどまっている ・封筒に入れる等特別の文書として取り扱われているものでもなく、単に書き損じの手紙等が残された便箋に綴じ込まれたままにされていること このような事情から,裁判所は本件遺言を無効としたうえで,さらに第二遺言はB子が偽造したものであることは容易に認定できるとして,B子は民法891条5号に該当するとして、被相続人の相続人となることはできず、同人の相続財産につき何ら相続権を有しないと断じました。 【掲載誌】 判例時報1628号54頁
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