遺産分割協議に関するQA

母が亡くなり,相続人であった私と弟との間で遺産分割協議をしました。遺産は母名義の不動産と預貯金がありましたが,弟が不動産を,私が預貯金を相続することとしました。弟が取得する不動産の価値と私が相続した預貯金とでは差がありましたので,弟からは,代償金を支払った貰うという内容でした。しかし,協議が成立後,不動産の時価は私が思っていたよりも高かったことが判明しました。私は,弟からもっと多額の代償金を支払ってもらうべきだと思っているのですが,いまから,遺産分割協議をやり直すことはできますか?
1 まず,弟さんに遺産分割の協議のやり直しを申し入れて,弟さんが承諾するのであれば,遺産分割協議をやり直して,新たな代償金等の取り決めをすることはできます。 2 しかし,弟さんが遺産分割協議が有効に成立しているとして,協議のやり直しを拒否した場合は,当該遺産分割協議について,あなたが錯誤無効(民法95条)を主張できるかどうかが問題となります。 一般論として,遺産分割協議も当事者の意思表示により成立するものですので,錯誤や詐欺などの民法の規定に従って,無効や取消を主張することができます。このことは,裁判所の遺産分割調停で合意したという場合も同じです。 問題は,遺産の評価を誤ったことが,「要素の錯誤」(民法95条)に当たるかどうかです。 この点が問題になった裁判例として,東京高等裁判所昭和59年9月19日(判例時報1131号85頁)があります。 この件では時価2500万円の遺産について,多くても1559万円程度であると誤信した当事者が150万円の調整金(代償金)で遺産分割調停手続で合意し,後になって遺産の評価額に錯誤があったとして遺産分割協議の錯誤無効を主張したというものです。 (1)裁判所は,遺産の評価については(本来錯誤無効を主張することができない)動機の錯誤ではあるが,本件では遺産の価額について,分割当事者に表示されており,仮に実際の時価を知っていたのであればそのような遺産分割内容には合意しなかったであろうことから,「要素の錯誤」に該当すると判断しました。  したがって,お尋ねの件では,まず,そもそも弟さんとの間で遺産の評価額について合意や表示があったのか,あなたがその内心で一方的に遺産の評価額を決めつけて代償金を提示したのかなどが問題になります。 (2)ただ,前記の裁判例で,結論としては,裁判所は,錯誤無効の主張を認めませんでした。 それは,代償金という形で解決する場合,当該当事者にとって遺産の価額は代償金額算定の根拠となる最も重要な事項であり,その点について遺産分割の当事者は適宜必要な調査を行う義務があるものとし,この件で当該当事者は調停において2名の弁護士を代理人として手続を進め,調停期日(14回)には毎回出頭し、その間本件不動産の価額を調査する十分な期間があるにもかかわらず、本件不動産の価額について鑑定を依頼するなど適切な調査を行わないまま漫然と経過したなどの事情から,錯誤無効を主張できない「重過失」(民法95条但書)があるとされたからです。 したがって,お尋ねの件でも,この裁判例に従うならば,あなたが遺産の価額を調査するだけの必要な努力を尽くしたかどうかなどの事情が問題になってくるものと思わけます。
【法律相談QA】 法律相談の時間の目安はどのくらいですか? メールで相談することはできますか? 法律相談の料金はいくらですか? 費用が幾らくらいかかるのか不安です


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