共有に関するQA

【裁判例】 全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく競売による分割をすべきものとして原審の判断に違法があるとされた事例 最高裁判所平成10年2月27日
1 事案の概要 被相続人の死後,法定相続人であったその子らであるX1・X2・Y1・Y2・Y3・Y4の間で,遺産であった土地建物(本件不動産)について法定相続分(各6分の1)の割合に応じた共有とする旨の遺産分割がされました。 本件不動産にはY1一家が居住しているほか,X2の経営する会社等を債務者とする複数の根抵当権(極度額合計5億円弱)が設定されていました。 X1・X2は,Y1・Y2・Y3・Y4を被告として,本件不動産につき共有物分割請求訴訟を提起し,分割方法として競売による分割を求めました。 これに対し,Yらは、不分割の合意があるとかXらの分割請求は権利濫用に当たるなどと主張して争いましたが,一審二審とも,Yらの主張を認めず,本件不動産は現物分割に適さないとして競売による分割を命じました。 なお,本件訴訟の係属中,X1の死亡に伴いその子X3・X4が訴訟承継し,X2が共有物分割を求めないとの意向を表明するに至っていました。 2 最高裁の判断 本件不動産は,相続人間の協議により法定相続分の割合に応じた共有とする遺産分割がされたものであって,その形状等から現物分割は不可能である上,Y1が今後も本件不動産に居住することを希望しており,Y1らにおいて,本件不動産を競売に付することなくY1が単独であるいは他の上告人らとともに対価を支払ってこれを取得する方法による分割を提案していることなどにかんがみると,本件不動産についてのXらの持分をY1単独ないしYらの取得とすることが相当でないとはいえないし,Yらの支払能力のいかんによっては、Yらにその持分の対価を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害することにはならないものと考えられる。 そうすると,本件について,全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく直ちに競売による分割をすべきものとした原審の判断には、民法258条の解釈適用の誤った違法があるというべきでありる。 3 河井伸一判事の補足意見(概要) 原判決は「共有物分割に反対する共有者が他の共有持分を買い受ける資力がないことが認められる」と判示しているので、これに関連して若干補足しておきたい。 支払能力の有無の認定・判断は、実際には必ずしも容易でない。 例えば,現物取得者が担当額の銀行預金を有していることが証明されても他に債務を負っているか否か,その額等が明らかでなければ,必ずしもその預金によって対価が支払われるとは断定できない。 逆に,格別の資産を有していることが明らかでなくても,何らかの人的関係によって必要額を調達できる場合もある。 支払能力の認定・判断とは,結局,将来支払がされるであろう蓋然性の予測であるから,右の例だけでも明らかなように,それを確実に証明し,認定することには本来的な困難が伴うものである。 そのため,裁判所が,この予測が将来当たらないことを案じてその認定を厳しく行うことになれば,全面的価格賠償の相当性が認められるにもかかわらずこの方法が許容されない場合が多くなり,せっかく認められた新しい方法が画餅に帰するおそれなしとしない。 私はこのようなディレンマを解決する方策が事案に応じて工夫されてよいと考える。 例えば,原告が競売による分割を求めて共有物分割訴訟を提起したのに対し被告が全面的価格賠償の方法による分割を求めているという事案において,全面的価格賠償の方法によることの相当性は十分に認められるし,被告には一応の資産があることも窺われるものの,前述の意味で支払能力が確実にあるとまでは断定できないとしよう。 このような場合に,裁判所としては直ちに競売による分割を命ずるのではなく,一例として,次のような趣旨の判決をすることが許されると考えるのである。 すなわち,被告が判決確定後一定の期間内に裁判所の定める一定の額の金員を支払うことを条件として当該共有物を被告の単独所有とすることとし,当事者からの申立てに応じて原告に対し右支払と引き換えに持分移転登記手続を命ずるなどするとともに,被告が右所定どおりの支払をしない場合には当該共有物を競売に付してこれを分割する旨を命ずるのである。 右の例において,被告の支払うべき金員の額は,当該共有物の口頭弁論終結時における市場価格を基礎として,これを競売した場合に原告が取得し得るであろう配当金等の額を下回ることのないように定められるべきである。 そうすれば,原告にとっては,もし被告が任意に右金員を支払えば,競売手続きによる場合よりも不利にはならないということができるし,もし被告が右期間内に支払をしなければ,本来求めている競売による分割が行われることになる。 他方,被告にとっては,自ら右の支払をしさえすれば、求めているとおりの結果を得ることになるのである。 また,共有物分割訴訟は形成訴訟であるとされているから,右の例の場合を含め,全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合において,対価取得者に対して持分移転登記手続を命ずるためには,当事者からの別訴の提起を待ってこれを併合することが穏当であろう。 対価の額を判断するための資料等も当事者から提出されるべきものであって,裁判所の釈明権の行使が期待されるが,それによっても適正な対価の額を定め得ない場合は,結局,法廷意見のいう「特別の事情」が認められないものとして,全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されないことになるのである。 法廷意見及びその引用する最高裁判例が,全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるための要件として,現物取得者に対価の支払能力があることを求めているのは、共有者間の実質的公平を確保するためである。 すなわち,現物取得者に対価取得者の有する共有持分を取得させることとしても,裁判所が適正に定める対価が確実に対価取得者に支払われるならば,あたかも分割の方法として競売手続が選択され、現物取得者が当該共有物を競落した場合と同様の結果となるにすぎず、実質的に、競売による分割の方法について期待されるのと同様の公平性が確保されるからである。そうだとすると、前記四に例示するような措置をとることによっても、結局、右と同様の実質的公平が確保されることは明らかであるから、現物取得者の対価支払能力を要件とした法廷意見及び判例の趣旨は、何ら損なわれることはないと考えられる。 そのほかにも,右の私案には、民事訴訟についての伝統的観念等からする異論があるかもしれない。 しかし,私は,本来非訟事件である共有物分割訴訟においては,何らかの実質的な不都合がない限り,弾力的,合目的的な方法が工夫されてよく,それが全面的価格賠償の方法による共有物分割を承認した最高裁判例の基本的な理念にかなうものと考えるのである。 【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事187号207頁        判例タイムズ974号96頁        金融・商事判例1051号44頁        判例時報1641号84頁        金融法務事情1523号71頁
【法律相談QA】
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