※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


上杉商店の破産 その1

 都内で電気製品の卸や小売の会社を営む「株式会社上杉商店」の上杉信太郎社長は頭を抱えていました。  上杉商店では、電気機器の中でもマニアが好むような小型の通信機器やパソコンの特殊な部品などニッチの分野を得意としていたのですが、ここ数年は売り上げが思うように伸びず、従業員の給料も遅配が続いていました。  それでも、何とか公的金融の新規融資や買掛先に支払いを伸ばしてもらうなどしてもらってやり繰りしてきましたが、こんどの月末にはどう考えても、金融機関や買掛先、従業員への支払いができそうにありません。  今はもう10月20日で、月末まであと10日しかありません。  上杉社長は、中小企業セミナーで知り合った半蔵弁護士の下を訪ねることとしました。
半蔵弁護士はいつもは遅くても夜8時くらいには事務所を後にしますが、今日は、上杉社長から深刻そうな声色の電話があり、「仕事が終わった後に相談に行きたい」というので、事務所で待っていました。時計はもう夜の9時になろうとしていました。  上杉社長が事務所に来たようです。
半蔵弁護士

「やあ、上杉社長。この事務所の場所はすぐに分かりましたか?」

上杉社長

「ああ、半蔵弁護士さん、こんな遅くになってしまって本当に申し訳ないです。場所はすぐに分かりましたよ。半蔵弁護士さんとは電話で話すばかりで事務所に伺うのは初めてでしたね。」

半蔵弁護士

「それで、今回の相談というのはどんなものでしょう?」

上杉社長

「うん、電話でおおよそ伝えた通り、月末の支払いの目途が立たなくて、もう会社の方がよくないないんです。」

 (やはり・・・)半蔵弁護士も薄々は分かっていましたが、予想どおりでした。それでも、(こうして弁護士のところに相談に来てくれてよかった)とホッと胸をなでおろしました。 半蔵弁護士は債務の状況を尋ねていくことにしました。
半蔵弁護士

「なるほど、でも社長決して気を落とさないで下さい。それで、月末にはどんな支払いがあるんですか?」

上杉社長

「まず、従業員20人の給与が500万円、次に金融機関への支払いが大体300万円くらい、買掛先への支払いが1000万円くらい、その他リースだとかいろいろ含めて100万円くらいかな」

半蔵弁護士

「予定されている支払がだいたい1900万円ですね。逆に入金される見込みのお金はいくらくらいなのでしょう?」

上杉社長

「そうだね、いまから月末までに大体800万円というところかなあ。」

半蔵弁護士

「う〜ん、かなり不足しますね。その入金というのは、売掛先からの入金ですか?」

上杉社長

「そう、うちの場合、業者への卸しと一般顧客への小売りがあるんですが、卸の方は1か月サイトくらいの売掛になっているんです。一般顧客への小売りは店舗での直接販売している分と代引きで売っている分があって、代引きの方は10日サイトで代引業者から入金という形になるんです。」

半蔵弁護士

「上杉商店は社長が創業して30年くらいにはすると思うんですが、今回、支払が難しくなってしまったというのは何かきっかけがあるんですか?」

上杉社長

「直接のきっかけとしては1年くらい前に売掛先が倒産してしまってそこからの受取手形が落ちなくなってしまって、資金繰りが苦しくなったということがあります。ただ、ここ数年は売り上げがだんだんと落ち込んでしまっていたというのも事実でその都度金融機関から借り入れしたり、買掛先さんから支払いを伸ばしてもらったりして何とかやってきたんだけど、追い打ち掛けるように、特に今年に入ってからは売り上げが伸びずに苦しいという状態で。。。」

半蔵弁護士

「ここ数年売り上げが落ち込んできたというのは、何か理由があったんですかねえ?」

上杉社長

「う〜ん、私もよくは分からないが、特にパソコン関係の機器の売れ行きが落ちてしまったという感じです。いま流行のスマートフォンの煽りをくったのかなあ、とは思っているんですけど。世の中の流れがとても速くて、私みたいなロートルは付いていけなくなったというところでしょうか。。」

 いつも元気な上杉社長なのですが、何となくしんみりとして元気がなくなってきてしまいました。 そんな上杉社長を励ましながら、半蔵弁護士は、さらに債権者の顔ぶれを確認していくことにしました。
上杉社長

「金融機関は、五菱銀行神田町支店が一番大きな債権者で、約3000万円の借入があります。次がむずほ銀行で約2000万円くらいです。あとは細々とあるけれど、金融機関からの借入の大半には信用保証協会の信用保証が付いています。」

半蔵弁護士

「買掛先の状況はどうでしょうか?」

上杉社長

「買掛先業者さんは、大体30社くらいですが、一番大きなのは株式会社ラヂオ機械さんの約2000万円くらいを筆頭に合計で3000万円くらいの債務になっています。」

半蔵弁護士

「月末の買掛先さんへの支払いは1000万円くらいだそうですが、いつもはどれくらいなのですか?」

上杉社長

「いつもは大体500万円くらいがよい所なのですが、大口のラヂオ機械さんに支払いを待っていてもらったものの分の支払期限がちょうど今月末になっているのです」

半蔵弁護士

「ラヂオ機械さんにはもう支払を延ばしてもらうことは難しいのでしょうか?」

上杉社長

「それはちょっと難しいですね。ラヂオ機械さんからの仕入れができなくなったら、事業を続けていくのは、もう無理です。」

半蔵弁護士

「買掛先さんへの支払いは手形や小切手ですか?」

上杉社長

「いえ、うちは手形も小切手も使っていません。」

半蔵弁護士

「従業員への関係はどうでしょうか?」

上杉社長

「従業員は私を除いて20人いますけど、その支払いが大体500万円くらいです。」

半蔵弁護士

「従業員は全員正社員ですか?」

上杉社長

「いえ、パートさんが4名で、後の16名が正社員です」

半蔵弁護士

「従業員への支払いは遅れているのですか?」

上杉社長

「パートさんの分は今のところ支払っているのですが、正社員については1か月遅れになってしまっている人や一部だけ支払っている人などがいます」

半蔵弁護士

「一部でも支払っている人とそうでない人とのその違いはなんなのですか?」

上杉社長

「ええ、やはり、古参の社員には少し甘えてしまって、遅配をお願いしてしまっています。」

半蔵弁護士

「従業員の方には退職金はありますか?」

上杉社長

「いえ、うちには退職金というものはありません」

半蔵弁護士

「税金や社会保険料の滞納はどうでしょうか?」

上杉社長

「赤字なので法人税の滞納というのはありませんが,消費税を300万円ほど滞納していますね。社会保険料も滞納があります。」

 次に、半蔵弁護士は、上杉商店の資産の状況を訪ねていくこととしました。

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