遺言に関する裁判例

【裁判例】 不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないとされた事例  最高裁判所 昭和61年11月20日
【事案の概要】 1 遺言者は,西洋史学を教えていたをしていた大学教授の男性で,昭和50年10月に亡くなりました。   遺言者は,昭和41年春ころ被告の女性と知り合って,昭和44年9月ころから,同棲するようになってしまいました。 2 遺言者は,昭和22年に婚姻していましたが,昭和40年ころからは夫婦それぞれ別々に生活するようになっていました。遺言者と被告の女性が知り合ったのは,夫婦の別居開始後ということになります。   遺言者の妻は,昭和43年ころ、自ら出版した書籍の出版記念パーティに被告女性を同伴して出席したことから,遺言者の妻もこの時から同人らの交際を知るようになりました。   なお,遺言者は,その後も妻の住むマンションに被告の女性を連れて行き宿泊させたこともあったと認定されており,なかなか変わった夫婦だったと言えるでしょう。 3 遺言者と被告女性の交際は、遺言者が死亡する昭和50年10月ころまで続いていましたが,この間,亡遺言者と被告女性の間で喧嘩や別れ話なども時々あり,遺言者と被告との間で金銭的な取り決めもなされたことがありました。   例えば,昭和45年1月には両者の間で、遺言者が被告に毎月10万円を支給し,更に遺言者は被告女性名義で定額預金等を積立てることなどを約した協約事項書を作成したりしました。   昭和45年10月ころから昭和46年1月初めころまでの間,遺言者と被告女性との間で争いや別れ話が持ち上がり,両者の間で財産的な問題で種々やりとりがありました。   被告女性は遺言者から昭和46年4月日,前マンションのの売却代金の内金として金300万円を受け取ったり,昭和48年12月には金300万円の贈与を受けたりしていました。 4 このような状況の中にあつて、昭和49年8月21日,遺言者は,当時被告女性を来訪した際,急に遺言書を書くから用紙をよこすように言って,被告女性が「適当な用紙がない」などというと近くにあつたノートを切り取つて遺言書を作成しました。   遺言書の作成後,遺言者は,「将来安心して生活できるだろう」などと述べながら被告女性にその遺言書を手渡して,被告女性がそのまま引き出しに入れたところ,遺言者は「銀行の金庫に入れておくよう」に助言し,被告女性は言われるまま自分の銀行の金庫に預かつてもらいました。 5 本件遺言の内容は,原告である遺言者の妻と子及び被告女性に全遺産の3分の1づつをそれぞれ遺贈するというものでした(なお,当時の民法の定める妻の法定相続分が3分の1でした)。 【コメント】  本件は,遺言者の妻と子が,本件遺言が公序良俗に反するとして無効であると最高裁まで争いましたが,公序良俗には反しないとして有効と判断されました。  最高裁では,次のようなポイントが挙げられています。 (1) 内縁関係がある程度継続していたこと    本件では,約7年間いわば半同棲のような形で不倫な関係を継続しており,一時関係を清算しようとする動きがあつたものの,間もなく両者の関係は復活しその後も継続して交際していた (2) 夫婦としての実態を失っていたこと    被告女性との関係は早期の時点で遺言者の家族に公然となつており,他方遺言者夫婦間の夫婦関係は昭和40年ころからすでに別々に生活する等その交流は希薄となり,夫婦としての実体はある程度喪失していた (3) 不倫な関係を維持継続する目的で遺言がなされたとは言えないこと    本件遺言は、死亡約1年2か月前に作成されたが,遺言の作成前後において両者の親密度が特段増減したという事情もない (4) 遺言の内容が相続人らの生活保障を脅かすものではないこと   本件遺言の内容は、妻ら及び被告の女性に全遺産の3分の1ずつを遺贈するものであり、当時の民法上の妻の法定相続分は3分の1であり,相続人である子についてはすでに嫁いで高校の講師等をしており,本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく,もっぱら生計を遺言者に頼つていた被告女性の生活を保全するためにされたものというべきであり、また、右遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえない 【掲載誌】 最高裁判所民事判例集40巻7号1167頁        家庭裁判月報39巻3号27頁        最高裁判所裁判集民事149号165頁        裁判所時報950号1頁        判例タイムズ624号89頁        金融・商事判例765号25頁        判例時報1216号25頁        金融法務事情1145号32頁
【関連QA】 私の父は,私と母を残して愛人の女性の元に去りその愛人と暮らしていましたが,父は最近死亡しました。父は遺言を残しており,それによると,私と母に対しては遺留分に相当する遺産は与えるが,それ以外の遺産は愛人の女性に相続させるという内容でした。このような遺言が許されるのでしょうか? 【裁判例】 不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反するとされた事例  東京地方裁判所 昭和63年11月14日 【法律相談QA】 法律相談の時間の目安はどのくらいですか? メールで相談することはできますか? 法律相談の料金はいくらですか? 費用が幾らくらいかかるのか不安です


タイトル
メールアドレス
お名前 (全角)
お問い合わせ内容
個人情報規約 個人情報規約はこちら
(注)このフォームは簡易お問い合せフォームです。一般的,簡単なご相談であればメールでご回答差し上げます(無料)。 「相談フォーム」もご利用ください。